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Hero-ヒーロー-

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1章 突然の来訪者



よろよろとした飛行でファイアボルト10号に乗ったまま着地した。もう若い頃のような箒から、ひらりと舞うように飛び降りることなどできないからだ。  
近頃は腰痛もひどくなってきたから、無理をしてそんなことをしたら捻挫するかもしれない。
骨ももろくなってきているし、折れた骨をくっつける魔法はもう歳をとりすぎて効きにくくなってきていた。 

『無理をするものじゃない』 
というのが最近の自分の口癖だった。 

もうあの頃ではないのだから── 
 


ハリーは箒を手にしたまま、細い路地をうろうろと歩く。
表札がよく読めないからだ。 
近頃また老眼が進んだのかもしれない。
文字がだぶって見える。 

口だけは達者なハーマイオニーから、「だからメガネは遠近両用にしなさい」と何度も言われていたけれど、あれをかけると頭痛がするので今でも近視用のみを使用している。 
「若者ぶって」とロンはひ孫を膝に乗せて、子守をしながら笑ってからかった。 
 
5年に一度の『騎士団のつどい』では段々とメンバーが減り、今では自分とロン夫妻と、あとは3人くらいの淋しいものになっている。
むかしはあんなにたくさんいたのに、年齢を経るごとに減り続けているのが現状だ。 
自分も若くないと思いながら、それでもまだまだ大丈夫だとも思いたい。

闇祓いの仕事を辞してから20年が経ち、あのヴォルデモートとの死闘からは60年が経過していた。 
闇の帝王を打ち破った時は『英雄』などと持ち上げた人々もすぐに平和に慣れて、ハリーの存在を忘れてしまった。
彼自身も表舞台に出続けるほど厚顔ではなかったので、あっさりと地味な闇祓いの部署に就職した。
 
しかし、闇の陣営の残党が現れ事件を起こすたびに、どこからともなくあの伝説のハリー・ポッターがファイアボルトで駆けつけて、瞬時に敵をやっつけてくれた。
人々は突然現れて敵を倒し、颯爽と帰っていくヒーローに惜しみない声援を送った。 
 
ハリーは魔法界のピンチに駆けつけるヒーローという役割をとても気に入っていたのに、ここの20年はその出番すらなくなってしまった。
大抵の悪者は退治してしまったし、残った悪党どもももう、自分と同じようにそれなりのトシになってしまったからだ。
ガタガタの体で、ヨボヨボの動きで、押されたからバタリと倒れてしまいそうな弱った足腰で、いったい誰が世界制服なんかできるのだろうか? 
 
悪党は隠居してしまい、ハリーもただのじいさんになってしまった。
ロッキングチェアーで日長が一日ぼんやりとテレビを見る毎日。
世界の平和を願ったけれど、まさか訪れた平和が正直こんなに退屈だとは思ってもいなかった。 
何もすることがないのだ。 
暇を持て余していたときにふと、
(自分の一番のライバルで大悪党のドラコ・マルフォイはどうしているのだろうか?)
と思い出した。 
 
彼は残党狩りでも首尾よく逃げおおせたばかりか、いろんな手下を使い、ありとあらゆる手段で世界征服を目論んでいた憎い相手だ。
何度も追い詰めたけれど、いつも土壇場で逃げられてばかりいた。 
あのズル賢い狐のような悪党とも、もう20年も会っていない。 
風の噂ではここらへんに住んでいるらしいと、昔の仲間が教えてくれた。 

だから、ほんのちょっとした気休めだった。
ここへ来たのは。 

訪れた暗い路地裏に建つのは、今にも倒れそうなガタがきている家ばかりだ。
ハリーは老眼でピンボケした眼で、そこにある家の表札を一軒一軒丹念に調べていく。
何件か回ったあと、やっとそれは見つかった。
ボロボロの緑色のペンキがはげかけたドアには、まったく似つかわしくないほどの立派な表札が貼り付けてあった。
銀のプレートに金の美麗な文字で、 『ドラコ・マルフォイ邸』と堂々と書いてある。
邸宅と呼ぶにはあまりにもお粗末で、その立派すぎる表札だからこそ余計にその家がオンボロに写った。
今の彼の惨めさを表しているようで、なんだか肩が下りてしまう。 
 
ノックをしようか、このまま帰ろうかと思案したけれど、すぐに結論が出た。
年老いたハリーには箒に乗っている飛行時間が長すぎたようだ。
腰の腰痛が痛い。
かなり。
しかも体が冷えてしまったので、生理的現象も襲ってきた。
下腹部に。 
時間がない。
大変だ。
昔ほど我慢ができないんだ、膀胱も!
 
慌ててドアを叩く。
ドンドンと何度も切羽詰ったように。
相手が顔を出す前に、ガチャリと鍵が外れるのと同時に、ドアを引っ張り一気に中へとなだれ込んだ。 

「ド……ド……ドラコ、どこ?トイレはどっちだ?トイレ!」 
必死に前を押さえて小刻みなダンスをしている侵入者に、家の主は慌てる。 
「貴様は誰だ!」と叫んで追い返したいけれど、相手のジリジリとした動きに家主も焦る。
ここでされたら、たまったものじゃない!
漏らされたら掃除をするのは、いったい誰だと思っているんだ?! 
慌てて右のドアを指差した。 

「あっちだ。さっさと行け!すぐに!」 
「わわわっ……、ありがと!急がなきゃ」 
悲鳴のような声を上げて、相手はそちらに向かって歩く。
漏らさないように、内股加減の変な動きのままで、クネクネとした小走りだ。 

ドアを開けていきなり立ったままズボンを下ろして放水のような音を立て始めたので、家主は怒鳴った。 
「ドアを閉めろ!下品だろ!」 
一括されて、少しビクッと首をすくめてハリーは「ごめん」と謝りつつ、小さく呪文を唱えて、それをバタリと閉めた。 

ドアの向こうからは、大げさな憤りを含んだこれ見よがしのため息が聞こえてきたのだった。 


作品名:Hero-ヒーロー- 作家名:sabure