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命短し愛せよ乙女 熱き血潮の冷えぬ間に

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竜ヶ峰帝女に園原杏里の持つ秘密が発覚したのは、咲き終えた桜の花弁が枝を離れ地に舞い降る頃だった。
 中学時代の友人と疎遠になり帝女やその幼馴染は新たな友人と呼べる数少ない他人だったが、ああこれでまた独りになるのか、と少し前なら覚えもしなかった喪失感が胸を刺す。抱えた秘密がこのまま今すぐに彼女を愛してしまえと甘言を吐くも、彼女はしかしその特徴的な瞳をぱちりと瞬かせた後、苦笑しただけで杏里を秘密ごと受け入れた。
「どうしよう、その娘に見合うものを、ボクは園原さんに差し出せない」
 その言葉だけでも嬉しいのに、彼女は更に与えようとしてくれる。
 知れず内に泣いていたらしい。温かい涙が頬を伝い、歓喜と共に溢れて止まない。
「泣かないで」
彼女を困らせたくないのに、嗚咽に遮られて言葉すら紡げない。
 ふわり、と柔らかく包まれた手がとても心地良くて、この手だけは斬りたくないと切に祈り、願う。
 きゅっ、と少し力の込められたそれに顔を上げれば、穏やかな彼女の微笑が目に入った。
「待っててね。その娘に見合う、園原さんに寂しい思いをさせないくらいの何かを、ボクもきっと手に入れてみせるから」
ああその言葉だけで充分だったのにそう言えず、肯いてしまったのだろう。こんな我儘染みたことを願う性分ではなかった筈なのに、
「待ち、ます。待ってますから……ッ」
結局、杏里は彼女の言葉に甘えてしまった。





 春の花が散って初夏、緑の溢れる裏庭で杏里は帝女に銃を突きつけられた。
「お待たせ。これでお揃いだね」
にこり、と笑って彼女は消音機もなしに躊躇なく引金を引く。銃口から飛び出したのは無数の短針なれば納得もいく。そんなことを考える間にも宿主を殺させまいと杏里の持つ秘密は針を斬り裂いた。
「園原さん」
 彼女が笑っている。殺されかけたのかも知れないというのにそれだけでふわふわとした心地になる。
「大好き」
針の全てを、というわけにはいかなかったのだろう。刀身に針を撃ち込まれた罪歌は愛の歌に少し異なる言葉を重ね始め、引き摺られるように杏里も刀をその手に構えた。
「杏里、と呼んで下さい。――――帝女さん」
 彼女が笑っている。ならば自分も、と杏里も笑う。不恰好ではないだろうか、彼女の笑みに見合うそれだろうか、と不安は残るが泣くなどという無様は相応しくない。
「私もです」
 だから笑顔で火蓋を切って落とした。
 この後、”逢瀬”は幾度となく繰り返されることとなる。
 




 鈴の転がるような声で鬨を上げ、細腕で獲物を振るう。


 愛しているから支配したい
  愛しているから全てが欲しい
   愛しているから命すら欲しい
    この想いを余すことなく伝えたい!


  ”愛し”た方が勝ちであり、惚れた方が負けなのだ。