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逢いたい人。

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 なんでこんな日に限って。

 臨也は焦りながらキーを叩く。
 何台ものディスプレイに目を通しながら、急ぎで持ち込まれた案件を片づけていく。
 こんなことなら携帯の電源を切っておけばよかった。
 後悔しても遅い。
 しかもその仕事にかかっているうちに他の仕事が舞い込んでくる状態で、まったく収拾がつかない。
 あああ、いっそのこと全部投げ出してしまおうか。

 そう焦るのも仕方ない。
 なぜなら。

「・・・・・・」

 目の前のソファには、退屈そうな恋人が座っているのだ。
 しかも、初めて訪ねてきてくれたのだ。
 これが焦らないでいられるだろうか。

 先日、自分は彼に言ったのだ。
「もし会いたいと思ってくれたらいつでも会いに来てよ」と。
 どうも臨也の仕事が不規則なため、今まで遠慮してくれていたようだ。
 そんなの関係ないのに。シズちゃんのためなら仕事の一つや二つ。
 ・・・・・・とはいかないのが今の現状だけどさ。

 けれど焦れば焦るほど空回りしてしまう。
 確認を怠って何度か電話をかけなおすハメになり、四木に鼻で笑われるという失態まで犯してしまった。
 あなたも人間ということですね、ってなんだよ! どこまで把握してんだあのおっさん!
 
 イライラとキーを叩く。
 静雄にちらりと目をやれば、見るとはなしに雑誌を眺めている。
 事前に来るとさえわかっていれば、好物の一つや二つ、いや冷蔵庫いっぱい甘味で満たしておいたのに。
 あああ、なんたる失態。情報屋の名折れかもしれない。
 それにしてもこの忙しいのに波江はどこ行っちゃったの。
 秘書の波江は、先ほど静雄に飲み物を出すと、どこかへ消えてしまった。
 気を使ったのかもしれない。
 確かに彼女の既定の拘束時間は過ぎていた。
 でも少しくらい残業してくれてもいいじゃないか、そう思った矢先。

「あら、忙しそうね」

 波江が戻ってきた。手には何か持っている。
 波江は臨也の視線などどこ吹く風でキッチンへ入ると、皿に盛り付けたその何かを持ってきた。

 あ、ケーキ。
 すみません、と静雄は頭を下げる。
 波江はにこりとも笑わずに秘書として当然のこと、という顔でこちらにやってくると
「特別手当、つけなさいよ」と言って領収書を投げてよこした。

「・・・・・・ありがと、波江さん」
「でも今日は帰るわよ」

 それだけ言うと本当に帰ってしまった。
 うう。でもケーキ買ってきてくれたのはいい仕事だ。さすが俺の秘書。

 静雄は皿に盛られたケーキを嬉しそうに眺めている。
 あれって○○の限定ケーキだ、よく買えたな波江恐るべし。
 よく見れば領収書はケーキ代とは思えない金額になっていたが、
 それは見なかったことにする。
 どんな手を使っても必要なものは手に入れる、そんな姿勢は望ましいと思われる。多分。

 しかし、シズちゃんかわいいな、写メりたい。いや、そんな暇ないから。
 ケーキを嬉しそうに眺める静雄をチラ見しながら、臨也は頑張って仕事を片づけることにした。


 奇跡的な追い込みで仕事を終わらせ、ようやく一息ついたのはそれから一時間後だった。
 集中している間に部屋は静かになっていた。
 え、もしかして帰っちゃったとか・・・・・・?
 恐る恐る顔を上げれば、静雄はソファで転寝をしていた。

 あ、寝てるのか。
 よくよく考えれば、静雄はいつものバーテン服だ。仕事の帰りに寄ってくれたのだろう。疲れてるのかもしれない。
 寝てる静雄は穏やかで、とても公共物を素手で破壊できるような人間には見えない。
 どちらかと言うと天使だよね、あーシズちゃんかわいい。
 脳味噌腐ってんのか、と静雄に言われそうなことを考えながら、臨也は隣にそっと腰掛けた。
 それからそっと声をかける。起こすのもかわいそうだけど、風邪ひいちゃうしね。

「シズちゃん、起きて」
「・・・・・・ん」
「風邪ひくよ、ほら」

 優しく声をかけると、うっすらと目を開けた。
 それから嬉しそうに笑う。
 その顔が本当に嬉しそうだったので、臨也は驚いた。
 うわーシズちゃんのこんな顔、初めて見たかも。寝ぼけ万歳!

 そんな臨也には構わず、静雄は臨也に抱きついてくる。
 温かいな、なんて月並みなことを考えた。
 そんなどうでもいいことでも考えないと持たないよこの状況!
 臨也は内心慌ててはいたが、それを出さないように努力した。

「・・・・・・た」
「え?」

 静雄が何か呟いた。聞こえなかったので臨也は聞き返す。
 静雄がもう一度だけ口にした言葉は。

「会いたかった」

 ・・・・・・。

 もうやだなにこの人天然なの? 天然タラシ?
 どんだけ俺のこと持ってくつもりなのシズちゃん!

 臨也は今自分がみっともないくらい赤くなっていることを自覚した。
 それから静雄が寝ぼけててよかった、と心から思った。
 だってそうでもないとこんな言葉は聞けないよね。 

「俺だってすごく会いたかったよ、シズちゃん」

 照れながらも静雄の耳元に小さく呟く。
 静雄の首筋に顔をうずめている臨也には見えなかったが、静雄の頬も赤く染まった。 



作品名:逢いたい人。 作家名:774