おもいでばなし
そうさな。
聖神様に授かったばかりの奴といったら、それはもう小さな赤ん坊でな。
すっぽりと手の中に収まって、ビー玉みたいに大きな目をくるくるさせておった。
伸び始めたばかりのえんどう豆のひげみたいな巻き毛がちょぼちょぼと生えておってな。
そうそう、助うごなんぞは、女の子天使と間違えたりしたもんじゃよ(笑)。
しかし、奴が小さかったのは、我々に比べてだけではなかった。
同じ時期に他の聖源主が授かったどの若神子よりも、奴は小さく、かぼそかったんじゃよ。
それで、儂は、ひどく心配した。
この子は、本当に次の時代を担うだけの力を持ちうるのだろうか?
儂はこの子供を、そのように育てられるのだろうか?……とな。
悪い予感は当たるもので(笑)、赤ん坊の頃の奴は、ずいぶん儂の手を焼かせたものじゃった。
赤ん坊じゃからな、まあ、よく泣くのは当たり前なのじゃが……。
ああ、泣くときは人一倍大きい声でな、元気よく泣くんじゃよ。
それは、今の奴から想像してもらえれば、分かると思うがの(笑)。
ところがな、泣き声が急に小さくなったかと思うと、もうぐったりとしておるのじゃ。
そのたびに、儂らは慌てて柔らかく炊いたミルク豆を食べさせたり(慈養たっぷり、赤ちゃん天使の食事にはぴったりなのじゃ)、理力を注入したりと、大忙しであった。
そうじゃ、一度は奴を抱いて、スーパーゼウス様の元に走ったこともあったわい。
どうしても、理力が回復しなくての。
……あの時の事を思い出すと、今でも嫌な汗をかくわいな。
そんな顔をするな。現に今、奴は元気じゃろうが(笑)。
そう、奴はなんとか無事に育ったのじゃよ。
しかし、赤ちゃん天使からの癖はなかなか抜けなかった。
感情のまま理力を出し切ってしまってな、あっという間に疲れてしまうのじゃ。
これではとても聖遊源の外には出せぬ、そう思った時期もあった。
一生儂の側に置いて面倒を見るか?とずいぶん気を揉んだものじゃ。
しかし、冷静に考えれば、そういう訳にもいかないのは明白じゃった。
奴は、いつか、次界へ向けて旅立つやもしれぬ運命を孕んだ若神子であった。
そうでなくても、気が強くて意地っ張りな奴が、外の世界を見たいと言い出した時、留め立てする自信が、儂にはなかったしの。
……そうそう、もし奴を一生儂の側に置いておくとしても、儂の寿命では、とても間に合わないしのう(笑)。
と、いうことで、いろいろ考えた末に、儂は一計を案じたのじゃ。
そう。奴の使う、聖コインじゃ。
奴は実際、力を使う時の、集中力と瞬発力は、大したものであった。
さすがは聖遊源の若神子、と、いったところでな。
問題は、それが続かないことじゃった。
持久力が、決定的に欠けておったのじゃよ。
乏しい理力を、如何に温存し、有効に使うか。
それに対する儂の答えが、聖コインであった。
もちろん、聖コインつぶてに、一撃必殺の力は、ないがの。
しかし、コインならば、最小限の理力で作れ、奴の集中力なら、戦いの最中でも無理なく出しつづけられるしの。
なによりコイン作りに集中させることで、理力の放出をできるだけ押さえようとしたのじゃよ。
儂は、奴に聖コインつぶてを教えながら、口を酸っぱくして言ったものじゃ。
「お前が投げているものは、石つぶてではない、貴重な聖コインなのじゃ!一球入魂じゃ、確実に当てるのじゃ!!」
と。
しかしの、儂が本当に惜しんでいたのは聖コインじゃない、聖コインを作り出す、奴の理力そのものじゃった。
もちろん、体の方もずいぶん鍛えたものよ。
マメノキアスレチックランドでな(笑)。
楽しそう、じゃと?
いやいや。
……今にして思えば、あの小さい体で、よくぞ耐え抜いたものじゃ。
そうじゃ、それほど厳しい鍛練を課しておったのじゃよ。
……それから先は、お前さんがたの方が、よく知っておるじゃろう。
聖球を奪われた後は、奴の姿を見ることも叶わなかったしの。
だから、ワンダーマリアの六魔穴で奴が飛ばされて来た時にはの、あー、その、なんじゃ、お、驚いた、のじゃ。
奴があまりに立派に育っておった、の、で……。
……。ずずっ。
はっ!!
(真っ赤になった目と鼻をこすりながら)おい!お前!!これは、だめじゃ!放送禁止じゃ!
でももクソもない!フィルムをこちらに寄越すのじゃ!!寄越さないと踏みつぶしてくれるぞ!!!
……ふう。
危ないところじゃった。
あんなものを奴に見られたら、儂の立つ瀬なんぞありゃせんわい。
……それに。
奴は、こんな話は、きっと知らないほうがいいんじゃ。
のう?助うごよ。