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如月ヒメリ
如月ヒメリ
novelistID. 13058
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これくらいなら許されますね?

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がつ、と脇腹に蹴りが入った。
鈍い痛みにうめくと同時にベッドから転げ落ちる。
「うっ、」
今度は肩を打った。声が漏れる。痛い。
固い床に落ちた痛みですっかり眠気が覚めてしまった。
蹴られたわき腹と打った肩をさすりながら起き上がる。ベッドの上には自分を蹴り落としたネズミが、こっちの気など知らず気持ちよさそうに寝ていた。

ここにきて知ったこと。ネズミの寝相が悪いこと。
一緒のベッドで寝て、分かった。
寝ぼけてその長い脚で蹴っ飛ばされる。痛い。
ベッドから落とされるのもこれが初めてではなかった。

まったく、人のことを蹴り落としといて君は気持ちよく寝てるわけか。
むっとしてネズミの顔を覗き込む。すーすーとおとなしい寝息を立てている彼の顔は起きているときとはずいぶん違って見えた。
多分、あの不思議な色の目が見えないからだ。灰色の、いろいろな光を宿す、目。それが見えないせい。
自分でそう結論付ける。
でも、整った顔は変わらない。作られたようなきれいなかお。
不意に、その顔に触れたくなった。なめらかな肌に指を這わせたくなった。
こんなこと、行動に移そうとしたの始めてかも。
無意識のうちにネズミのほうへ伸ばしていた手に気が付いて、紫苑は苦笑した。
ネズミの顔がきれいだってことも、なめらかな肌は触ったら気持ちよさそうだろうなってことも、思ったことはあるけれど。
実際触ろうと手を伸ばしたことはない、多分。起きているときにそんなことしようとしたら、するりとかわされて終わりだろう。
今なら触れるかもな。
そんなことをふと思って、改めてネズミを見た。
「ネズミ」
呼びかけてみる。反応はない。人差し指で柔らかい頬をつついてみる。ん、と声を漏らして顔をそむけたが、起きる様子はなかった。
親指と人差し指で頬をつまんでみる。むに、とネズミの顔が歪んで、なんだか可笑しかった。
するりと肌を撫でる。やはりなめらかで、気持ちがいい。
何度か撫でているうちに、形の良い唇のほうに目が行った。この口が悪態をついて、優しい言葉を紡いで、冷たく突き放す。不思議だ。
指でなぞってみる。ふっくらしていた。
キスしても、いいかな。
口を近づけてみる。ネズミの顔が近くなる。
静かに静かに、こちらの唇を押し付けた。
ゆっくりと顔を話すのと同時に、自分の顔が熱を持ち始めるのを感じる。
ああもう、起きないネズミが悪い。
自分の行動を相手のせいにしながら、自身もベッドにもぐりこむ。ネズミと逆の方向を向いて目をつぶった。


―蹴り飛ばされたんだ、これくらいいいでしょ。