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うわごとをちかう

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「・・・・っぢいぃ・・・」

 あまりの暑さと喉の渇きに意識覚醒。
 
 眼にしたのはすすけた木目の天井で、藤本獅郎は一瞬自分の居場所を思い出せなかった。
「・・・――― ああ・・」
 無意識に動かしたはずの腕が何かに押さえられていて、ゆるく右にむけた視界にとびこんだ黒い小さなかたまりによって、現状を理解。
 続けて左を確認。
 こっちにも、黒いかたまり。
「 ――― ・・・なあんで、こう・・・」
 再度見た右腕。
 手首近くにその子どもの黒い頭がのっている。
 くかー、と聞こえる寝息に合わせ、Tシャツから出た腹が、おだやかに動く。
 
 ――― あ〜あ、腹、冷やすなよ・・・
 
 まあ大丈夫だとは思うが、とゆるく笑って左腕を見れば、こちらの子どもは首の後ろに大人の腕を通し、むこうに突き出た左手にそっと自分の手を添えるよう、静かに寝ている。

  ――― おいおい。眼鏡、ちゃんとはずして寝ろっつうの・・・

 苦笑してから、自分もそれをかけたままなのに気付き、鼻から笑いをもらしながら両脇の子どもを見習うように、天井をみた。
 タンクトップ一枚でむきだしの肩が畳を感じる。
 きっと、それはみごとな痕がついているだろう。
 右手の指は、感覚がない。
 こんな、子どもの軽い頭でも、のせたままだと重いな、と眼を閉じて、指先を動かしてみた。
 左腕は、子どもの首下に入った肌が、じっとりとお互いの汗ではりついているようだ。
「・・・・ひでえもんだ・・・」
 眼を開き、今の心境を、天井に訴えた。




 この夏、海にゆこうと言い出したのは、驚くことに、この自分だった。

 どこかいい民宿ねえかともちかけた、友人というか、知りあいが、ここに行けと手配してくれたのは、どう見ても旅館じゃねえかという広さと設備だったが、食事は自室でとるかたちだったし、温泉が各部屋にあったりで、小さな子ども二人も気兼ねなくのびのびと好き勝手でき、嫌でも感謝しなきゃならない環境だった。
 和風なつくりの二階家の端。
 『青翠の間』なんてしゃれた名前がついた部屋からは、むこうの山から崖になった景色と、その下の、まさしくヒスイっぽい色した水が望めたりで、子どもたちは最初から興奮気味。初めて眼にしたそれに、キレイ、スッゲエ、を連発し、木でできたもろそうな手すりをまたいだ兄貴に制裁を加え、弟と手をつながせて行動を制限させた。

 ――― 海ってだけで、あんなアガるか?

 両腕にある、小さな頭を軽くゆすってやれば、両方が小さくうめき、体勢を変えて、再度静まる。
 右腕の兄は、体の向きをかえ、こちらに寄った。
 左腕の弟は、添えられた手をさがし、つかみなおした。

 ――― ・・なんでこんな汗かいてんのに、さらにくっつくんだよ・・・

 畳に大の字になって昼寝すんぞと宣言したのは確かに自分で、予定では、つられた子どもが寝むれば、むっくり起きて大人は一人、昼から一杯の予定だったはずだ。
 まさか、こんな冷房もいれない窓を開けただけの状態で、直に畳に仰向けになったまま、この自分が寝入るとは、思ってもいなかったことだ。
 
「・・・あっぢ・・・」
 
 眼鏡の鼻当てが不快だ。ああ、ユキオのも早くはずしてやらねえとなあ。リンはもうちょいむこうに行ってくれ。頼む。右側の体感温度が絶対に三度以上高くなってる。左腕なんか、ユキオの寝汗がしたたってんぞ・・・。ちくしょう・・。
 
 別に、子どもをはねのけて起き上がってもいいはずだ。

 右をみて、左をみる。
 自分を見下ろし、自由になる足さえも動かしていないことに気付いた。
 ふいに、『ハリツケ』という言葉が浮かぶ。
 続いて、ここを紹介してくれた、知り合いも思い出す。
  
 ――― いや、ちがう
 
 打ち消す。

 あのときも、否定したのだ。
 『イケニエ』『カセ』『ミセシメ』どれもこれもを、否定した。
 
 右と左の、 重さを、 熱を、 確かめる。
 
 両手に抱えたそれを、秤(はかり)にかけろと言うやつがいた。
おまえの手にしたそれは、今は等しく見えるだろうが、やがては、片方だけが重くなる。だから、常に秤にかけておき、おまえがその重くなった分を、いつかは、『調整』せねばならぬ、と。
 
 ――― ちがう
 
 あの時も、否定した。

 今でも、それは合っていると思うし、この先も、この考えかたは変わらない。それは、自分を信じているというよりも、きっと、 ―――― 。

 
 
 
 眼を閉じる。

 右と左に、等しい重さと熱がある。
 
 たしかに、自分たち三人は、なにかの天秤にかけられているのかもしれない。

 だとしても、その、秤の中心は、自分ではない。
 
 右を見る。

 ただ眠る子どもに、告げた。


「 ――― りん、おまえが、真ん中だ。おれと、ゆきおで、両脇、守るからよ 」


 
 左腕をゆすり、弟の同意をそっと求めれば、きゅう、と指をつかまれた。

「 ―――・・・ったく。・・・なあんで、こう・・・ 」

 言葉は続かない。
 
 動けない身体は、何かの刑によってではなく、己の意思でここにある。
 
 傾いた日がさし始めた部屋の中。
 
 子どもの汗のにおいと畳のかおりに、乾いた喉が、おかしな音をあげた。
 
 
作品名:うわごとをちかう 作家名:シチ