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【擬人化王国5新刊】無明を征く【サンプル】

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一度、教皇から手紙が来たことがある。内容まではよく解らなかったのでーーその勿体を付けたような言い回しのラテン語は、騎士団が読むのには少し難し過ぎたーー読んでもらうと、原住民のことをもう少し考えて布教を行うように、という内容とのことだった。それを聞いて、騎士団は鼻白む。
「聖下は何も判っていない! そもそも、伝道なんてしなくても別に良いだろう」
 騎士団の不遜な物言いに、修道士たちは慌てた。
「こら、滅多なことを言うもんじゃない!」
「あいつら、折角改宗させてやったって、すぐに裏切って元に戻ろうとするじゃねえか。あいつらでなくたって、この地を耕したい誠実なキリスト者はいくらでもいるだろ」
 不機嫌に頬を膨らませた騎士団を諭すのに、修道士たちは随分と骨を折るはめになる。修道騎士団を体現する少年の言葉は、そのまま、彼ら自身の本音とかなり重なる部分があったためだ。あれこれと言い聞かせても、どうにも説得力に欠ける。
 それに、実際、騎士団はひたすらに戦うしか方がなかったのだった。


※※※


「改宗しただぁ? よくそんな戯言を抜け抜けと言えたモンだな。ミンダウガスの野郎のことを忘れたとは言わせねえぞ!」
 リトアニアの統一を進め、カトリックへ改宗した過去の君主の名をあげ、騎士団は口元を歪める。君主が洗礼を受け、修道騎士団への土地の寄進などを約束していたにも関わらず、民衆の反発によって土地の寄進どころか侵攻が行われ、結局君主も再び異教に復してしまったのは、人間の時間ならともかく、国の時間ではついこの間のことだ。
 が、リトアニアの方も言われるがままではない。押し戻し剣を構えると、きっ、と騎士団を睨めつけた。
「司教様がうちに来るのを邪魔してた修道騎士団が、聞いて呆れるよ! 神様のことより、単に戦争がしたいだけじゃないか」


※※※


 世人の評する哲人王の名に恥じず、フリードリヒ二世は著述を能くする。その質はプロイセンの与り知るところでは無いが、量に関して言えば、生半な大学教授よりも多いのではないか。……そんなことを思いながら、プロイセンは私室で机に向う上司を見つめていた。何か世に問うための文章でも書いているのか、知己の哲学者への私信なのかは判らないが、随分熱心なことだ。
 共に私室への立ち入りを許された数少ない仲間、フリードリヒの飼い犬であるグレイハウンドの背を撫でると、遊んでくれると思ったのか、構えとばかりにまとわりついてくるが、部屋でバタバタ騒ぐのは飼い主があまり良い顔をしないので、生憎ご期待には添えそうにない。
「私は、お前のことが嫌いだったよ」
 書き物をしていた手を休め、唐突にフリードリヒは口にした。


※※※


 一八七一年一月十八日、パリ、ヴェルサイユ宮殿。
「プロイセン、乃公は、民族の統一なんてもの、考えちゃいないぞ」
 式典の準備であれこれ指図を出していたビスマルクは、プロイセンを見かけるなり不機嫌に言った。
 ほんの数十年前、弟を得たばかりの頃の自分と同じような台詞を吐く宰相に、プロイセンは吹き出しそうになるのを必死でこらえる。
「本当はこんなこと、やるつもりはなかったんだ。実に忌々しい」
「晴れの善き日に、そんなこと言うモンじゃねえよ」
「何が善き日なものか、これが不慮の事故でなくて一体なんだと言うんだ! 陛下には泣かれるし、全く散々だ! 大体、お前の弟とやらはともかく、なぜお前がそんなにヘラヘラとしていられる?」
 突然話題に上げられたことに驚いたのか、ライヒはプロイセンの背後、僅かに身じろぎしたようだった。
「ハハ、生憎、俺は国家の現し身であって、王家や政府とは違うんでね。あンたや陛下が俺の要素であるのは勿論だが、同時に、統一を求めてた民族国家主義者連中も、紛れもなく俺の一部なんだよ」


※※※


「それがよぉ、ひっでえんだぜ。用事あってこっちに来たら、人手が足りねえから手伝えって引っ張りこまれて。まあ、ロシアとは講和したから、上としてはこっちに集中したいんだろうけど。連中、絶対俺らのこと、体のいいジョーカーだとしか思ってねえよな。ホンット、国使いの荒いこって」
 プロイセンは不機嫌であったが、ジョーカーとは言い得て妙だな、とドイツは感心する。人間とは異なる時間の流れで生きる国は、人間がその一生をかけて身につけるよりも遥かに幅広く深い知識や経験を習得することが出来る。近隣諸国の中では若い若いといまだに言われ続けるドイツでさえそうなのだから、その遙か以前より生きている兄の持つ知識や技能に至っては、想像も出来ない。まして、プロイセンはこの世界に名を受けた頃よりの戦闘集団、軍事国家である。どの戦線にどんな役割で配置したとしても、ひととおりの働きが期待出来るというのは、やはりジョーカーに違いなかった。


※※※


「おい、兄さん! なんてことをしてくれたんだ!」
 乱暴にドアを開け、怒鳴る弟に、プロイセンは眉根を寄せた。
「なんだよ、落ち着け。俺が一体どうしたって?」
 ドイツは何かにつけて口うるさい男ではあるが、それを差し引いても異様である剣幕に、何ぞ怒られるようなことでもあったろうか、と首を傾げる。いまいち、心当たりが無かった。
「しらばっくれるんじゃない、どうせ貴方の仕業だろう! 俺がフランスにどれだけ詰られたと思ってるんだ」
「フランス? いや、ちょっと、俺様マジに話が見えてこないんだけど。何の話?」
 些か慌てて、プロイセンは問うた。身に覚えのないことで叱責されたのでは堪らない。まして、相手が可愛い弟であれば尚更だ。
「連合国にフォッカーを引き渡すよう言われていたのに、大破させただろう。着地に失敗しただと? ……確かに霧は濃かったようだが、そんなことで全員が全員着地に失敗するような技術しかなかったのか? 我が帝国軍航空部隊には!」