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夕方の教室で

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 西日がさす人気のない教室で一人、帝人は翌日のSHRで必要な冊子を黙々と作っていた。始業式のみだった今日は大抵の生徒が下校しており、グラウンドで野球部が練習をしている音に、帝人が紙を擦る音が負けるくらい静かだった。それは、後方にある教室の扉に誰かが立ったのに気付けないほどで。

「始業式の日まで居残りかい?」
「臨也さん! なんで学校に……」
「卒業生が来たらおかしい?」
「はい、臨也さんの場合は」

 驚いて振り向いた割には冷静に即答した帝人に一頻り笑った臨也は、無遠慮に教室へ足を踏み込んだ。手に下げたコンビニのビニール袋を揺らしながら帝人の席に近づく。

「なにか用事でもあったんですか?」

 隣の席、の椅子ではなく机に腰を落ち着けた臨也に目を向けずに帝人が訊ねた。持っていた袋から缶ビールを取り出しプルタブに指をかけながら臨也はうん、と頷く。

「この近くでね」
「学校でお酒なんて飲まないで下さいよ」
「これくらいじゃ酔わないよ。あ、帝人君のもあるよ」
「な……!」

 ぎょっとする帝人の眼前に出したのは、ビールと同じ飲料メーカーのオレンジジュース。呆れながらもほっと息をついて受け取るも、口を付けないまま鞄に仕舞い作業を続けた。

「あれ、飲まないの?」
「缶を倒しそうで嫌なんです」
「鈍臭いとこあるしね」
「否定はしませんけど他人に言われるのは嫌ですね……。プリントがあるので濡らしたくないんです」
「真面目だねぇ」

 言ってビールを煽る臨也を横目で見ながら、帝人は机の上を片付け始めた。提出するプリントの束と日誌以外を仕舞い鞄を持って立ち上がると、臨也がすっと手を差し出す。

「んじゃ、帰ろうか」

 送るよ、という臨也の言葉に甘えることにした帝人はゆっくりとその手を取った。
作品名:夕方の教室で 作家名:千砂