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雨音

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 なんでこんなに暑いんだい。しかもじめじめして、気持ち悪いったらないよ。こんなんだったら、やっぱりアメリカで会議を開くべきだったとは思わないかい。だってそうだろう。こんなんじゃ、どんなヒーローだってやる気を無くしちゃうんだぞ。
 会議室は涼しかっただろうが。あとだらしなくネクタイを弛めるな。
 会議終了後。昼食へと向かう途中、アメリカはぶつぶつと文句を零す。それに対し、ネクタイをかっちりと締め、ジャケットを着こんでいるイギリスは小言を言った。
 それを後ろから眺めながらスペインは心中ではアメリカの言うことも尤もかもしれないと、日本特有の気候に溜息をついた。
 会議室はたしかに空調も効いていて快適な環境であったが、外に出ればがらりと一変する。ちょっとした移動の際にも、空気中の水分がまとわりつき、汗がじわりと滲み出てくる。
 けれど、この湿った空気は水が身近にある証拠でもある。ここ数か月、本国でまともに雨が降っていない身としては、羨ましいことでもあった。
 廊下を歩きながら窓の外を見る。空は澄み渡る青で、綿菓子のような大きな雲が浮かんでいる。暦の上では季節は夏から秋に移り変わろうとしているようだが、まだまだ日本の夏は終わりそうにはない。暑さ寒さもヒガンまで、という言葉がありますが、それも最近では当てになりませんねぇ、と会議後の雑談の際、日本がイギリス相手に嘆いていたのを思い出す。
 ところで、ヒガンとはなんだろう。



(中略)



 スペインは再び歩き始めた。雨の中、歩きだしてどれだけ経っただろうか。さすがに誰にも会えないというのは、気が滅入る。
 ランブラス通りへと出た。いつもなら大道芸人や花屋、似顔絵描きで賑わうこの通りも、ひっそりと静まっている。通り沿いに、海へと向かう。
 コロンブスの塔の下に、人影を見た。
 イギリス……。
 雨の中、傘もささずに男は立っていた。近づくと、イギリスもスペインに気付いた。
 よお。
 男は表情を和らげることもなく、素っ気ない挨拶をかけてくる。
 ハニーブロンドの髪は雨に濡れ、額や頬に張り付いている。顔色も、あまり良いとは言えない。見かねて傘を差し出すと、イギリスはそれを拒んだ。
 その時に、ほんの一瞬だけ触れた指先は、驚くほど冷たかった。
 雨、持ってきてやったぜ。

***

 叩きつけるような音が絶え間なく響き、スペインは目を覚ました。暫くしてから、それは窓を打つ雨の音だと気付く。
 ベッドから抜け出す。裸足のまま窓へと近づき、カーテンを開けた。
 冷気が忍びより、何も身にまとっていない上半身が震える。
 それから数日間、雨はスペインの大地を濡らし続けた。まさに恵みの雨だった。


作品名:雨音 作家名:さつき