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【擬人化王国5】せかろく【新刊サンプル】

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(その始まりを忘れはせずよ)

はらはらと、音もなく、花びらが降り注いでいく。淡く広がる水色の空に反響する薄桃の色が、はたり 静かに柔らかな茶色の土の上に着地して、目線の先の地面を薄い色合いでちらほらと染め上げていた。白色は靡く桃をやんわりと滲ませ、桃はその色の狭間に白色を含ませている。輪郭が全てこの風景の中にはないもののように、色はその変遷も朧にそこにあり続けていた。イギリスはぱちんと金色の睫毛を瞬きさせ、日本をちらと見つめて小首を傾げる。
「凄いものだな」
「そうでしょうか。私は、この時期になると自然な情景であるので」
はにかみながらイギリスの言葉に異論を唱えた日本は、しかし満足そうに、少しだけ嬉しそうにその両頬を緩ませた。自国の文化に誇りを持っていながらも、それを前面に押し出したりはしない日本の奥ゆかしさを、イギリスは丁寧に好んでいるままに大きく頷く。
「この風景は全て曖昧だ」
けれどその曖昧は美しい、イギリスは小さく微笑みを浮かべながら呟き、音すらも穏やかに浸食されている世界へ視線を向け続けた。日本はイギリスの隣に楚楚として座り、薄く笑みを浮かべながらも 左様ですか と顔を綻ばせる。
「欧州の方々はあやふやなものを嫌うと、勝手に想像しておりました」
「そんなもの! 世界には即物的な考え方しかできない無骨な輩もいる。残念だけれどな。…それだけの話だ」
どこにでもそんな輩はいるんだ。声を張り上げてしまったことを恥ずかしみながら、イギリスは数回息を整えた後に、場違いなほど落ち着いた声を上げた。紳士であり続けようとしたその姿が崩れてしまったことに 少々きまりが悪そうな様子で居ずまいを正したイギリスへ、日本はくすりと、風景によく馴染んだ音のない笑みを浮かべる。或いは、日本のその笑顔からこのおぼろげな風景は生まれたのではないかとイギリスが邪推するほどに、ただただ似つかわしい日本の笑みをじいと見据えていたイギリスは、日本がふと自分へ視線を渡したことに目を丸めた。日本は目を丸めたイギリスを少し見つめて、緩く唇で弧を描く。
「美味しいお茶菓子があるのですよ。風景を愛でながら頂くお菓子とお茶は、また格別でしょう」
日本はおっとりと声を上げ、驚いたままの表情で固まっているイギリスへゆっくりと小首を傾げた。イギリスははたと気づいた、とばかりに目を丸め、日本の言葉へぎこちない様子で頷く。
「…頼めるか」
「はい、それでは、少々お待ち下さいませね」
にっこり 鮮やかに艶やかな笑みを浮かべた日本は、その笑みに驚いて無言を貫いてしまったイギリスへ浅く礼を行い、音もなく立ち上がってするするとそのまま廊下を歩いていった。イギリスは凛と真っすぐに伸ばされている日本の背中をそれとなく眺めた後、ゆっくりと視線を庭先へと戻した。

柔らかな、殊更に柔らかな色合いだけがイギリスの緑の瞳の中に映り込んでいる。仄かに暖かさを忍ばせた気温は緩やかな風に乗って、ぽかぽかとした陽気を循環させていく。綻ぶように広がる淡い色合いの花目がけて、はたはたと飛びまわる蝶は美しく儚かった。ぼんやりとした空気が透明な膜を張り、イギリスに曖昧模糊の世界を魅せる。息を吸い込めば ようやくといった調子で咲き誇りを見せている花々の瑞々しくも幼い芳香が満ちて、イギリスの内証を落ち着かせてくれる。イギリスは瞬きを行いながら、日本が落ち着きの中にも 客人を待たせてしまっているという急いた心地を抱えながら廊下を歩いてくる様子に気づいた。
「大変お待たせいたしました」
「いや、庭を見るだけで終わってしまった」
こんな自然の風景は見ているだけで時間が過ぎてしまうから。イギリスがはにかみながら呟いた言葉へ、日本はほんのりと嬉しそうに笑みを浮かべる。自然がただ自然であることを嬉しがる日本の態度は、イギリスの好む優しさと柔らかさをきっかりと兼ね備えている。
「…この風景はただ、愛おしく思えるんだ。お前の、表情に似ていると、そう、思っていた」
イギリスはぽつん、と声を上げ、瞬きを行っては驚いたように目を丸めている日本を見つめて 瞬間の沈黙の代償として頬を真っ赤に染め上げた。訪れてしまった不意の戸惑いへ、イギリスよりも日本の方が慌てた様子でさらりとしている黒い髪をかきあげる。耳がほんのりと赤くなっている様子に気づいたイギリスは、日本をじいと見つめてゆっくりと首を傾げた。
「…滅多なことを、申されますな」
照れてしまってもう、日本は 彼にとってはたどたどしい声音でイギリスを嗜め、未だ赤い頬を抑えて ふう と重く溜め息をついた。不安定すら感じさせる日本の動作へ、イギリスは動揺から一転、ふんわりと表情を崩して くすくすと笑みを零す。紳士めいた笑みへ、日本はますます戸惑いを含ませた視線を投げた。イギリスは日本の動揺に反比例するかのようにあっさりと日本へ落ち着いた笑みを見せた。
「思ったことを言っただけだ。自然を愛でるのも、言葉を発するのも」
簡単なことだと、そうは思わないか?イギリスはやんわりと声を上げ、日本をじっと見つめて小首を傾げた。日本はイギリスを見返し、ぱちぱちと瞬きを行う。
「私には、とても」
些細に言葉は失われましょう。日本はおっとりと声を上げ、目の前に咲き誇る桃色の空気を見つめる。その目に見惚れたイギリスの鈍い金色の髪が、さらりと揺れては淡い桃色の空気に晒されてきらきらと光を放った。柔らかな陽光に照らされて美しく輝く光に、日本はうっすらと目を細める。
「とても、か」
「…とても、です」
イギリスが相槌として発した言葉へ日本は呟き、イギリスはくすくすと笑みを浮かべながら日本の頬にそっと唇を寄せた。輝くイギリスの髪の毛に目を取られていた日本は、触れてきた唇の柔らかさに瞬きを行う。淡い桃の空気に触れた唇の熱が似合い、日本は言葉もなくイギリスを見上げた。イギリスは困ったように笑いながら、美しい、そう呟いて うららかな日の午後に日本の隣で 柔らかで愛おしげな笑みを浮かべた。
「好きだ、日本」
イギリスが放つ言葉は、まるで霞。やんわりと朧気に拡散しては日本の耳にやんわりと降りかかってくる。柔らかに儚げな笑みを見つめながら呆然としていた日本へ、イギリスは微笑んだ。その笑みのあまりの優しさに、日本は言葉を失っては視線を彷徨わせ 瞬間躊躇った後に 小さな笑みを浮かべる。イギリスは日本の笑みに、風景を壊さない様な、いとけない表情を浮かべて風景へ視線を移した。
「この曖昧さは、美しい」
イギリスは静かに呟き、日本は笑みを浮かべたまま、恥ずかしげに微笑み、風に押されて微かに揺れる枝先の桃色を見上げた。