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夕暮れと自転車

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「なあ水色ー」

 名前を呼ばれるのは、ケイゴに呼ばれるのは好きだった。ケイゴはいつだって心を隠さずに僕の名前を呼んだ。笑いながら、泣きながら。滅多にないけれど喧嘩をしたり、落ち込んだときも、いつも。たわいない日常というものが、ケイゴの隣りにいるときだけ感じられた。
僕は色々なことを隠したり言いたくないことをかわしたりしたけれどケイゴは何も言わないで笑う。
 勉強はできなくても頭の良いケイゴは僕の話すことは全部聞いてくれてそして笑って泣いて笑って、僕が望むままに傍にいてくれた。
今もずっと、傍にいてくれる。底抜けに明るく笑って、突き放したって縋るようについてくる。縋ってでも一緒にいたいのは僕の方だと、分かっているのだろうか。

「寄り道してこうぜ」
「もう暗いよ」
「じゃあ俺ん家泊まってけよ」

 決定な、そう言って顔をくしゃくしゃにして笑うケイゴは明るくて優しさに溢れていて、そして僕の弱いところを的確に見抜いていて、泣きそうになる。
 励ましや慰めの言葉は余計に胸に刺さる日に、ケイゴはただ笑って傍に寄ってきてはまた笑う。まっすぐ素直に寄り添いに行けない僕に代わって自分から、求める振りをしながら居場所を与えに来てくれる。

 僕は女の人に好かれる方法を知っているけれど、ケイゴは人に愛される方法を身に付けているんだと思う。モテるモテないじゃない。クラスに一人いるだけで雰囲気が変わる、そういう、才能。
 なんて素敵なことだろう。なんて羨ましいんだろう。それは少し憎らしいくらい。でもなんて幸せなことなんだろう。そんな彼が傍にいてくれることは。

 ケイゴの運転する自転車の後ろにだけ乗った。彼女の運転する車に乗ってもいつも心はどこかを彷徨っていて、背中にケイゴがいるとき、僕は荷台に座って流れる景色を見ながら意識を繋ぎ止めてちゃんと乗っていることができた。ちゃんとそこに存在することができた。


「ねえケイゴー」
「ん?」
「ありがとね」
「何がだよ?」
(…全部だよ)

 風を感じながら背中越しにする会話は気持ちが良かった。ケイゴの背中は中学のときよりも確実に広くなっている。今もどんどん大きくなっていく。強く、もっと強くなるんだろう。
キミは、大人だね。

「好きだよ」
「俺も!」

 屈託なく笑うケイゴは賢くて強くて優しくて、なんの躊躇いもなく隣りを貸して傍に居てくれて、いつかもっと近づける日がくるならそれは僕が今より強くなれたときだ。

「速度上げて下さーい」
「よしきたっ」

 加速する自転車はその持ち主の家を目指して土手に沿って走る。小石を踏んで滑っても、二人で草の中に転がり落ちてまた笑うだけ。
ケイゴは名前を呼んで手を差し出して大丈夫か?って泥だらけの顔で聞く。転び方も庇い方もちゃんと心得ていて、僕の受ける衝撃を出来る限り減らしておいて、聞く。


大丈夫だよ、キミの手が暖かくてキミの声は優しいから、僕は大丈夫。
元気だよ。届きますか?僕は今日も、笑えますよ。





                                               (051029)
作品名:夕暮れと自転車 作家名:かさい