いたずらに発火
どこからともなく生まれた熱気が、互いの間で漂っている。こうして重なり合うことは何度だってしてきたはずなのに、今日もまたこわいくらいに心臓が鳴り響く。壊れてしまうのではないかという、錯覚。
膝のあたりへ腰を下ろしていた身体が、ようやく安定する場所を見つけた、らしい。はじめはじわじわと迫ってきたくせに、最後は急くみたいにしてつながりあった。今までよりずっと高い声をタクトが絞り出すものだから、ヨウスケの背はぞわりと粟立ってしまう。
濡れそぼった熱気が中心部に集中して、ゆるやかに融け合っていく。動き方も、相手の好きなところも、知っている。でもなぜかそうさせるのを拒んでしまいたい自分がいて、細い身体にそっと腕を回した。
触れた肌に、浮き出したじっとりとした汗。その熱気をもっと吸い込んでしまいたくて、腕をまわした身体を抱き寄せようとする――が、それは叶わなかった。ヨウスケの気持ちを制するかのように、白い左手がヨウスケの頬に触れていた。指先がそわそわと肌の上で踊っている。
「動か…、ないのか?」
「……まだ、いい」
保留にしていた事項をずばり指摘されて、思わず舌打ちをした。向かう先はたしかに彼が求めるところだと知ってはいるけれど、じわじわと熱を高めていった今までの感覚をまだ無にしたくなくて、このままでいたくて。しかしうまく説明する言葉が思いつかないものだから、結局口ごもる事しかできない。自分の気持ちを口にするのは、比較的器用なヨウスケの、一番苦手とするところだった。ばつが悪くてそっと視線を逸らそうとするも、顔を軽く小突かれて叶わない。
いつもより水分を湛えた双眸がこちらを見下ろしている。触れたままの手はヨウスケの頬の上で遊ぶ。さわさわと、この琉球LAGの外で凪ぎ続ける波のように。
「らしくない顔、だな」
「………」
ストイックな印象のある切れ長の目に、柔らかな光が灯される。その瞬間を見送る最中に、顔を寄せられ唇が触れ合った。軽く触れるだけのキスはすぐに終わって、触れていた手も遠のいていく。
「……嫌いじゃない、な」
薄い唇が、柔らかに紡いだ。一見分かりづらい言葉であるものの、付き合いの長すぎるヨウスケはその言葉の意味を知りすぎている。即ち、好きだ、と。
遠のいた手は、そのまま持ち主の長髪をおもむろに掻きあげる。扇情的なワンシーン。その瞬間、抱き締めるだけじゃ足らなくて、目の前の身体をぐだぐだにしたいと思った。スイッチがはいったかのように、気持ちがシフトする。
焚き付けられたから、もう引き返せない。彼の言葉が、表情が、ヨウスケを荒々しくつくりかえる。「タクト」、と名前を呼んで、それから押し付けるように口接けた。