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小雲エイチ
小雲エイチ
novelistID. 15039
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パッチワーク

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穴に入れて、穴から出す。
単調な作業の繰り返し。
無心でその作業を繰り返していると、座っていた黒革のソファーの背もたれが沈み、体が後ろに少し傾いた。
それを気にすることもなく手を動かし続ける。

穴に入れて、穴から出す。
最後にぐるぐると巻きつけて、鋏で切る。
しゃきんと鋏が小気味いい音をたて、それに続くように耳元で「帝人君、なにしてんの?」と囁かれた。
「シャツのボタン付けてます。昨日どっかの誰かがシャツ引きちぎってボタンが全部弾け飛んじゃったんで」
そう返しながら机の上に散らばっているボタンを一つつまみ上げた。

首筋にかかっていた息が離れ、深く沈んでいた体が少し浮く。代わりに今度は、体の重心が左に少し傾いた。
ボタンの場所を合わせていた視界に、臨也さんのスリッパが入り込む。

「そりゃあ、酷い奴もいるもんだね」
そう言って小刻みに揺れる臨也さんに合わせて、僕の体も軽く浮き沈みした。

「そうですね」
あなたのせいだと言いたいところをぐっと堪えてそう返してやれば、臨也さんが肩に手を回してきた。
その衝撃で、針の穴に通そうとしていた糸の軌道がずれて、縁の部分でくにゃりと曲がった。
それに苛立つわけでもなく、ケバケバに開いてしまった糸の先を舌で舐めてもう一度狙いを定める。今度は上手く入った。

「ボタン付けなんて後でいいじゃん、もっとさ、せっかく二人っきりな時間を有意義に使おうよ」
「僕にとってボタン付けは有意義な時間なんです」
「だいたいボタンなんてちまちま縫わなくても新しいシャツくらい、買ってやるってば」

臨也さんが僕の肩に頭を乗せてきて甘い声でそう言ってくるが、タダより怖い物はないことを知っている僕はその言葉を無視して針を布に刺す。
プツンと、生地に穴があく音がし、ボタンが固定される。
穴に入れる、穴から出す。
黙々とその作業を繰り返していると、臨也さんが猫が甘えてくるときみたいに頬を擦り寄せてきた。
耳を甘噛みされ、じゃれるように耳の後ろにキスをされる。
僕がシャツのボタンを縫いつけているとき、臨也さんはいつもこうして甘えてくる。
普段以上に甘えてきたり、ボタン付けなんて止めろ、と言う割に明確な邪魔をしてこなかったりするあたり、もしかすると臨也さんも、悪いことをしたと思っているのかもしれない。

針仕事をしていると嫌でも目に入る手首には、真新しい擦過傷が痛々しく残っている。
手枷のように手首を巻くその傷は、昨日の行為の名残だ。

臨也さんは時々、発作のように僕の事を乱暴に抱いた。
それによって引っ張られたシャツは早幾枚、引っ張られたことにより弾け飛んだボタンは数知れず。

普段はどちらかというと優しく扱ってくれてはいると思うのだが、何かの拍子で、臨也さんのスイッチが入ってしまったらもう僕はどうすることもできない。
どうしてだかは分からないけど、臨也さんには、そういう変なスイッチが確かに存在した。

縛られて嬲られてぐちゃぐちゃにされて恥ずかしい言葉を言わされて、恥ずかしいけど気持ちよくて、気持ちいいけど苦しくて、苦しいけどもっと欲しくて――ばらばらな気持ちをなんとか繋ぎ合わせて、自分の中のいろんなものが散り散りになりそうになる恐怖を抱えたまま、僕は嵐が去るのを待つことしかできないのだ。

荒々しく抱かれること自体は、まあ、なんというか、百歩譲って、別にいいけど――困るのはそうなる度に着ている衣服に何かしらの被害が降り懸かることだった。
特に被害が甚大なのが、制服のシャツだ。

シャツを買い替えるお金なんて支払えない僕は、ボタンを弾き飛ばされる度に情事の雰囲気が残る薄暗い部屋で一人身を屈めて小さなボタンを探し、今のように地道に元あった場所にボタンを縫いつけている。
おかげさまで、ボタン付けの腕はめきめきあがったと思う。
けど、だからといって裁縫が得意になったわけではなく、得意なのはあくまでも、ボタン付けだけなのが少し悲しい。

「った」
ちくりとした痛みが走り、慌ててその原因となった針を指から抜くと、指先に血の玉が浮かんだ。
ちくちくとした鋭い痛みが、じくじくとした鈍い痛みに変わってゆく。
結構深く刺してしまったのか、血を舐めとってもすぐに新しい血の玉が浮き上がる。

「臨也さん、すみません、絆創膏とかありますか?」
「ん、刺したの?」

頷けば、手を取られぎゅっと指先を押された。
ぎゅうぎゅうと臨也さんのしなやかな指が僕の指を押し上げるように圧迫し、指先が真っ赤に染まる。
傷口からどんどん血が溢れてきて、今にも零れそうだ。
ぷっくりとした赤い固まりを見て、少しだけ臨也さんの目の色と似ているな、と思っていると、血の玉が揺らめき、重力に従って指先を伝った。

――垂れる。
そう思って手を引こうとしたが手首を臨也さんに掴まれて動かせず、広げていた白いシャツに、赤い水玉模様ができてしまった。
染みになったらどうするんですかと文句を言おうとしたが、言えなかった。
じっと僕の指を見ていた臨也さんが、おもむろに人差し指を口に含んからだ。
冷房で冷えていた指に、口内の熱が絡みつく。
第一関節を歯で挟まれて指先を吸われて、舐られて、ぞくぞくとした波が背筋をせり上がる。

「臨也さ、そういうのは、いいです、から」
「だめだめ、ちゃんと消毒しないと……あぁそうだ、こっちも消毒しとかなきゃね」

そう言って臨也さんが、腕を掴み手首に唇を寄せた。
ぐるりと手首を巻く赤い傷を追うように舐めあげる臨也さんの赤い舌がとても扇情的に見えて、耐えられなくなった僕は目を固く瞑り顔を逸らし、まだ半分しかボタンの付いていないシャツをぎゅっと握った。
臨也さんの肌と触れている部分だけ、電気が流されているみたいにぴりぴりと痺れる。
口から漏れそうになる声を、唇をキツく結んで耐えれば、頭に手を回されて口を塞がれ結んだ唇を上から舐められた。
くすぐったさに結びを緩めれば、そこから舌を割入れられ、指と同じように口内を弄ばれ、体が全体が熱くなる。
臨也さんの舌からは、鉄の味がした。
そのままずるずると体重をかけられて、僕の体はあっけなくソファーに沈み込む。
臨也さんの口が離れていく途中、口から少しでている舌から僕のなのか臨也さんのなのかはたまたどっちもなのか分からないけど糸みたいに細い唾液がのびて、空中で切れた。

「Tシャツ、ナイフで破いたりしないでくださいよ……」
そう忠告すると臨也さんが「帝人君が抵抗しなかったらね」といって薄い唇を引きのばした。
細る赤褐色の瞳に見つめられて、ごくりと喉が鳴る。
肺で熱く渦巻いていた空気の固まりを吐き出し、最後の抵抗として臨也さんの肩を押していた手を下げた。

――Tシャツが破られると、困るから。
だから僕は抵抗するのをやめただけで、この後に訪れるであろう行為を期待しているわけではない。断じて、違う。
作品名:パッチワーク 作家名:小雲エイチ