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【aria二次】その、希望への路は

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10.うごめく外野



 アリシアと藍華は、翌日から、アリスの期待通りに情報収集に走った。
 しかし藍華は、現役プリマと支店長という、二重の本業を抱え込んでいる。動きが取りにくく、出来ることは限られそうだった。
「アリシアさんにも連絡を取ったそうだから、大丈夫だとは思うけど …… 」
 そう呟きながら、夜になっても書類と格闘していた藍華が、一枚の書類を手に取ったとき、ふと、動作を止めた。
 ゴンドラ協会からのシングル昇格試験実施回覧状。見習ウンディーネが、希望の丘へと漕ぎ出す証。希望の丘は、普通にクルーズの対象となる観光名所なので、各水先案内会社は、有資格者以外には秘密になっているこの回覧を見て、なるべく試験とバッティングしないようにプランを立てる。昇格試験が、事故やアクシデントの元になる、という事もありえるからだ。
 万一バッティングする時には、というか、試験があっても希望の丘へのクルーズを取りやめるわけには行かないから、どうしてもバッティングは発生するのだけど、担当のプリマに注意喚起がなされ、それが「がんばってね」という声掛けの原因にもなっていた。
 藍華は、そこに、アリアカンパニーの社名と、アイの名前を見つけ出した。

「今度の休みに …… 」 あくる日の昼休み、藍華はアリスの携帯に連絡を入れた。「 …… アイちゃんのシングル昇格試験があるのよ」
 あの漕ぎ手がアイちゃんかどうかを確かめてから、物事を穏便に済ます方法を考えればいい、と考えていたアリスは、事態の急変にうろたえた。
「ど、どうしましょう?」
「私は、希望の丘に行くわ」
 電話の向こうから、気弱に尋ねかけるアリスに、藍華はきっぱり言い切る。
「試験の前にばたばたしても、アイちゃんにプレッシャーかけるだけ。でも、物事が決まってからでは、私たちには何も出来ない。ならば試験のその場で、アイちゃんと灯里に話を聞くしかないと思うわ」
「分かりました。私も当日、希望の丘に向かいます。今晩、アテナさんにも話してみますけど、多分、アテナさんも行くと思います」
「あの日、アリア社長を実際に見たのは、アテナさんだもんね。来てくれると心強いわ」
 その時、ふと、アリスは疑問を持った。
「アリシアさんは、この事知ってるんでしょうか?」
「落ち着くのよ、後輩ちゃん。回覧のでどころはゴンドラ協会よ。アリシアさんも当然知ってるはずだわ」

 確かにアリシアはシングル昇格試験の予定を知っていた。それどころか、アリスや藍華が知りえない情報まで把握していた。電力公社の経理部門から、ゴンドラ協会に送られてきた、発電機搬送費用の照会状。水上エレベータの運用記録。水上警察の運航日報。
 グランマに相談しようか、どうしようか。そう逡巡し続けて、いたずらに日数を費やしてしまい、アイの試験の前日となった。
「今日こそは、グランマに相談しよう」
 そう決めて、ゴンドラ協会の定時直後にグランマのデスクを訪ねると、
「あ、今日はグランマ、定時で帰られましたよ」
 主のいないデスクに戸惑っていたアリシアに、通りがかりの事務職員が教えてくれた。
「え、定時で?」
「はい。なんでも、明日、ご用があるとかで」
 事務職員に礼を言うと、アリシアはじっと考え込んだ。

 翌朝。
 晃は、朝早くから所用でゴンドラ協会へと向かっていた。姫屋という老舗水先案内店の筆頭プリマという役割は、傍目で見るほど楽なものではない。それなりに面倒な、果たすべき仕事が付随しているのだった。
 途中の水路で、よく見知ったウンディーネに出会い、なにげなく朝の挨拶を交わしてすれちがった後、ふと、違和感を覚える。
 あれ? 今、何か、凄く気になる情景を見たような?
 当たり前なのに、当たり前じゃない。まるで、クイズの間違い探しのような、まどろっこしさを感じながら、違和感の原因を探す。
 あ、今のはアリシアじゃないか! なんで、ウンディーネの制服着てるんだ!? もう、現役から引退したはずなのに。
 あわてて振り向くが、アリシアは曲がり角の向こうへと過ぎ去ろうとしていた。後を追って事情を聞こうか、と、一瞬思う。が、とりあえず仕事が先だと考え直してゴンドラ協会へと向かった。

 ゴンドラ協会では、事務職員たちが、かしましげに話し合っていた。パニックと言うのは大げさだが、明らかに浮き足立っている。
「アリシアの制服姿を見てびっくりするのは分かるんだけど」晃は、受付の職員にぼやいた。「ちょっと騒ぎすぎじゃないか?」
「え! アリシアさんもなんですか!」
「も?」
 晃のぼやきに、職員は驚いた声を上げる。
「グランマがアリアカンパニーの制服姿で、ゴンドラ漕いでいるのを見た人がいるんです。それで、朝から大騒ぎになってて」

 アリシアもグランマも、制服持ち出して何をするつもりなんだろう? 晃は、疑問を胸に姫屋本店に戻ってきた。会社の船着場から自室に戻ろうとした時、こそこそと船着場に走る藍華が目についた。
「くぉらぁっ! 藍華っ!!」
「ひゃぁぁあ」
 穏便によびかけるだけのつもりだったのに、ついつい怒鳴り声を上げてしまった。習慣って怖い。
「すいません、すいません。何も悪いことは企んでおりません。支店から連絡文書持ってきたついでに、アイちゃんのシングル昇格試験を見に、希望の丘へ行こうだなんて、考えてもおりません」
 語るに落ちまくる藍華。アイの名前を聞いた晃は、ぴくり と片方の眉をつりあげた。グランマもアリシアも、アリアカンパニーだ。これは、アイの昇格試験に、何かがあるな。
「おい」
 晃は、藍華に向けて顔をぐいっ と突き出した。
「私も希望の丘へ連れて行け」
「へ!?」

 アイは、楽しげにピクニックの用意をしていた。この一週間、まるで子供のように、今日のこの日が楽しみで仕方なかったのだ。今にも歌いだしそうなアイの様子に、灯里も微笑を抑えきれずにいる。アリア社長も、機嫌が良さそうに、おめかしの帽子をとっかえひっかえしていた。
「ちょいと、ごめんよ」
 表から聞こえた声に、アイはハリのある返事をすると、飛ぶように表に向かった。対応するための、余裕もスキも見出せなかった灯里とアリア社長は、思わず顔を見合わせて微笑んだ。
「え、あ、グランマ!」
 驚いたようなアイの声に、灯里も表に顔を出す。そこには、ゆったりとしたデザインながらも、確かにアリアカンパニーの制服を着用したグランマがいた。
「今日のピクニック、私もご一緒させてもらってもいいかい?」

 アイは戸惑った表情で灯里を見た。グランマの同行を認めるかどうかは、上司であり先輩でもある、灯里の判断による、と思ったからだ。
 灯里はそんなアイに返事をせず、しずかに見返した。その表情に、アイは灯里の言いつけを思い出した。今日のピクニックはアイちゃんが漕ぐこと。そして、灯里のことを、本当のお客様だと思って接すること。今日のゴンドラは、私が全部仕切らなきゃいけないんだ。