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龍吉@プロフご一読下さい
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novelistID. 27579
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You know You're right.

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迷いなんか、ないんだろう。
負い目なんか、ないんだろう。
喉に焼き付くこの想いすら、君は受け入れていたのだから。



You know You’re right



空は、雲一つない快晴だった。しかし、気持ちは少しも晴れやかではない。泥濘のようなものが、ずっと腹の底に溜まっている。
「いい天気ですね」
馬麟が、林冲の隣に馬首を並べて言った。その馬麟の顔も、暗い。
「嫌な天気だ」
「全くです」
「まるで」
「俺たちを笑っているようだ」
沈黙。
夏の盛りを過ぎ、快晴でも外に出ているのは辛くなくなった。それでも、できることならあの夏に戻りたい。
「あれ、公孫勝殿では?」
仰ぎ見ると、公孫勝が崖の上に立っていた。
「飛び降りる気じゃないだろうな」
「まさか」
見つめていたが、公孫勝は飛び降りる様なそぶりは見せず、そのまま踵を返して森の中へ消えて行った。
「飛び降りた方が、楽だったかもしれんがな」
「まさかとは思いますが、飛び降りよう、とか考えてませんよね」
「いや。ただ」
誰もいなくなった崖の上に目をやる。そこは絶壁で、落ちたらひとたまりもないだろう。
「あいつは落ちて死ぬほどやわじゃないさ」


日が暮れて、馬具を物置に返しに行くと物置に人影があった。
「誰だ」
声をかけると、白い顔が振り返る。憂鬱そうな顔は、魂が抜けたようだ。
「林冲」
「公孫勝か。こんなところで何をしている」
公孫勝は目を逸らすだけで、答えない。
「おい」
「扉を、閉めてくれ」
偉そうに、と言い返そうとしたが、余りに公孫勝の声が切迫していたために言えなかった。仕方なく、扉を閉める。振り返ると、公孫勝が抱きついて来た。怯えるように、細い腕が躰に巻き付いてくる。
「公孫勝?」
「頼む、林冲」
声が震えている。林冲も思わず竦み上がって、公孫勝の言葉の続きを待つ。

「抱いてくれ」

林冲は、動けなかった。こいつは、何を言っているんだ。
公孫勝は、消え入るような声で更に言い募る。
「頼むから」
今まで、公孫勝から誘って来たことなど一度も無かった。いつも、林冲が誘って、罵られて、無理矢理に犯すばかりだった。
どうしてこんなときに。
公孫勝の細い肩を掴んで、躰を引き剥がす。
「逃げるのか、公孫勝」
無言。
「思うことは、何もないのか」
無音。
「……」
静寂。
なぜ、自分がこいつを責められる。
そんな思いが、ふっと心に浮かぶ。もしかしたら、今ここで責められていたのは自分かもしれないのに。
「こんなことなら、夢など見なければ良かったと思う」
公孫勝が言う。その言葉は、林冲の心に深く突き刺さった。
「何が、志だ。こんな結末で、何が変わるって言うんだ」
痛いほどの言葉だが、林冲の心に溜まった黒いものが少しずつ流れていく気がした。
「だから、私はここを去る。お前の邪魔はしない」
「ここを去って、お前はどこへ行くんだ」
「遠くから、この行く末を見ている」
「敵前逃亡は、死罪だぞ」
「こんな煮えた湯を飲み続けるくらいなら」
拳を握りしめるその手を見て、林冲は理解した。
公孫勝は、共に逃げて欲しいのだと。公孫勝にとって志は、生きるための糧だったのだと。
林冲も同じだから、理解できる。
「一つ、約束して欲しい」
「なんだ?」
「ここを出たら、俺以外の同志には決して会うな」
「最初から、そのつもりだ」
抱き寄せ、唇を吸う。閉じた長い睫毛の間から、雫が筋を引いて流れていった。
その涙すら今は拭ってやれないことが辛かった。

何もかも、良い時なんてなかった。夢を見ている間だけなら、嫌なことを忘れられた。
なのに、いつからだろう。
嫌な現実が夢を侵食し始めたのは。
感じない時はなかった、この痛み。
こいつがいなくなったら、この痛みは永遠に俺を縛り付けるだろう。

それでも、こいつを忘れずにいられるならいいと思えた。





次の朝、公孫勝は梁山泊のどこからも姿を消していた。
そして二度と、その姿を見ることはなかった。