斎藤さんだけが、知っている
「畜生!ちょこまか消えやがって!!」
青く発光したワイルドタイガーが伸ばした指先で、犯人のNEXTの姿が消えた。
「スカイハーイ!!」
空中に浮かんだスカイハイが両手を構え、ワイルドタイガーの背後一帯の空気で渦をつくり、宙に現れた男を空高く舞い上げる。
「バニー!!」
泳ぐ体をビルの壁面に一度着地させ、プールの壁を蹴るように空中へと飛び出すワイルドタイガーの青と緑の軌跡が夜空に映え、そして全く違う方向から青とピンクの軌跡が同じポイントに向けて飛んだ。
わずかにバーナビー・ブルックスJr.が先にNEXTを捕まえた。
遅れることコンマ数秒でワイルドタイガーがもう一方の腕を掴む。
その瞬間、NEXTは再び姿を消した!
対象を失った二人は、空中で激しく正面からぶつかる。
パワー発動時のスピードの衝撃は相当なもので、幾分かはスーツが吸収してくれるが、少しでも最小限に抑えるためにお互いを抱きかかえる。
「わりぃ、バニー!大丈夫か?」
「大丈夫です!」
互いを確認しながらもかぶりを振って次の出現ポイントを探す。
その間にもスカイハイが次の見えない罠(ルビ:渦)を作り出す。
先ほどよりも広範囲で空気がひゅんひゅんと音を立てた。
スーツに守られていなかったら二人の肌はかまいたちに切られたようにいくつも切り刻まれるだろう。
「きた!」
視界の端にNEXTの光を認めたバーナビーは、思わず相棒の靴底を足の甲に乗せ蹴りあげた。
地上に降りることができずに空中移動を繰り返していた犯人は、スカイハイの空気の網に体をもてあましていたところに、バーナビーに推進力をつけられた虎徹が一閃青い光を纏って闇を切り裂きながらぶつかってきた。。
「悪いな」
虎徹は自分がNEXTだからこその不快感を持ちながら、用意していたNEXTのパワーを抑える特殊な手錠を犯人の手首にかけた。
それ以外に犯人捕縛の方法はなかった。すかさずスカイハイが二人を抱えて地上へと運ぶ。
『やりました!!風の魔術師スカイハイ、ワイルドタイガー!そしてKOHのバーナビーの連携コンビで連続強盗犯人を確保!互いの能力をうまく使った見事な連携プレイ!流石われらがヒーロ!!これでシュトルンビルトの平和がまた守られました!!ポイントが三分割されます!』
ヒーローTVのアナウンスが叫ぶ。
当初、逮捕の速さの度合いで取得していたポイントも共闘の場合は分割するようになっていた。
所属会社が違うヒーロー達だったが、ウロボロスのジェイクを倒して以降、それぞれの得意分野を使っての連携プレイが多くなった。それを受けてなっていたからだ。
地上で固唾をのんでいたファイヤーエンブレムら他のヒーロー達もほっと胸をなでおろした。
この数か月、瞬間移動系のNEXTによる銀行強盗が続いていた。
何度捕まえても瞬間移動しては捕まえられず、取り逃すことが続いていたが、ワイルドタイガー、バーナビーのスーツ経由でそれらを見ていた斎藤が移動における法則を解析した。
半径十~二十メートル以内であればどんな材質もすりぬけるNEXT。
それが犯人のNEXTだった。
地上で戦うには障害物が多く逮捕には不利な状況だった。なので一度空中へと運んでしまえば、どれだけ能力を発揮しても空中以外には逃げ場が無いだろうという作戦だった。用意周到なNEXTであればその弱点に手をうっていたであろうが、一見万能に見えるその能力に過信していたのだろう。
「見事だった、実に見事だったよ!タイガーくん、バーナビーくん!」
内蔵マイクででも話しているのか、お互いに顔を見合わせるワイルドタイガーとバーナビーにスカイハイが話しかける。マスクの上からでも満面の笑みを彷彿させるスカイハイとシェイクハンドをかわし、青い光が消えた二人はアポロンメディアへと戻った。
いつもの虎徹の軽口とマスクを上げて謙遜してみせるバーナビーの姿を予想していたスカイハイは少しだけ、小首をかしげた。
作品名:斎藤さんだけが、知っている 作家名:だい。