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これからの

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「ん?」

風呂上がりの取り切れなかった湿気を含んだ髪をタオルで押さえながら、雪男が自室の扉を開けると、自分のベッドを占拠している『モノ』が目に入った。

「……またか……。」

おそらく今日も雪男のベッドの上で本を広げているうちにうとうとしてしまったのだろう、下着が着物と認めたくもない短い衣類の裾からむき出しになって、そこからすらりと伸びている肉感的な両足が投げ出されている。うつぶせになって腕に顔をもたせかけている美女の髪は日本人とはかけはなれた血を物語る朱色と金色で彩られている。
霧隠シュラ、上一級祓魔師であり、雪男と同じく元聖騎士藤本獅郎に師事した姉弟子でもあり、悔しいことに雪男の初恋の相手でもあり、今は恋人である彼女だ。
シュラが日本文化を学ぼうとしていることに雪男は最近気付いた。本当に自分の努力を他人に見せようとしない彼女だから、自分のまぬけさにも歯噛みしたし、案外真面目で真摯なところがあることを再認識して舌を巻いた。まあその情報源とするものが漫画やらのいわゆるサブカルチャーに偏り気味なのが珠に傷なのだが。
今日は燐もお気に入りのJSQを読んでいたらしい。開かれた雑誌のページを一瞥してそう知る。その下にある無防備な寝顔を見遣れば、アメジスト色の瞳は細やかな睫毛にとってかわられ、肉厚で柔らかなぷっくりとした唇が少し開かれていて、よだれが出そうになっている。さらに下は着衣が乱れてすべらかな肩が露出していて、雪男の眉間に皺が寄る。

「まったく……寒くなってきたのにこんな格好のままでは風邪をひきますよ。……シュラさん。」

そう言いながら多少の体重がかかるように意識して、二回り以上小さいシュラの身体に覆いかぶさる。うつぶせになっているシュラの胸と二の腕の間のすきまを縫うようにして腕を差し入れ、無頓着に投げ出された両足の間に膝を割り込ませた。

「う、ぇ……?!」

雪男の不意打ちにびくりと身体を震わせ、目を覚ましたシュラがあわてて口元を拭う。
上一級祓魔師のくせに、とは思うが、シュラは雪男の動作に関してはひどく鈍感になる傾向がある。それだけ自分にたいして気を許してくれているのかと思えば嬉しいが、自分が操られでもした時はどうすると思わなくもない。自分の手で愛する女性の命を絶つなど絶対に御免だ。

「……なんだ、雪男か……びっくりさせやがって……。つかもう長袖長ズボンかよ。お前が厚着すぎんだろ。」

後ろにまとめられた朱い髪を梳いていると、振り返ったシュラが雪男の寝間着を見てそう断じる。

「貴女が薄着すぎるんです。」

きっぱりと断言して、これ以上この論争を続ける気はないので否定を返される前に艶やかな唇を塞ぐ。
柔らかな唇は合わせるだけで目眩がしそうに甘い。舌で舐めれば素直に開かれる唇から微かに漏れる息が聴覚を刺激して、理性を押し流そうとする濁流と化す。寝ていたからか単に雪男との体温の差か、熱い口内へと忍ばせた舌を気まぐれに甘噛みされ、理性が焼き切れる音が脳内にこだました。

「ん……まあ、脱がせるのは楽ですけどね。」

雪男がシュラの細い腰に緩く回された帯を解けば、ぴくりと可愛らしい反応を返されて口元が綻ぶ。

「お前……ビビリメガネなだけじゃなくムッツリスケベだったのか……。」
「誰がビビリメガネのムッツリスケベですか。」

ビビリメガネと言われて即座にツッコミを返すのはもうこの数年ですっかり癖になってしまった。このやりとりですら愛おしいとさえ思ってしまうのだからもう末期だ。

「そもそもこの年頃の男子なんて四六時中頭の中はそういうことでいっぱいですよ。“お盛んな”年頃ですから。」

わざわざ強調して言ってみれば、シュラが少し目をみはってから、いつもの人をくった笑みを浮かべた。

「へぇ。まさかそんな言葉お前の口から聞くなんて思わなかった。」
「どうです?見てみますか、男子高校生の“本気”。」

抱きしめるようにして柔らかい身体をひっくり返すと、シュラの腕がするりと雪男の首に巻き付く。

「ビビリくんにゃ無理だよ。」

近づいてくるシュラの笑みを含んだけだるげな大きな瞳から目を離せなくてそのまま吸い込まれそうな感覚に陥ってしまう。ふふっと笑ったシュラの息遣いが唇に感じられた直後、互いの唇が重なり合い、シュラから積極的に舌が絡められる。
負けまいとすれば、シュラが喉奥で笑った。

「んっ……ほぉらすぐむきになる。」
「うっさい……この露出狂のエロ魔神が。」
「言ったなー?泣き虫ビビリのくせに生意気になりやがって。」
「……いつの話ですか。」

イニシアチブくらい取れるさと心の中でこぼして、シュラの首筋に唇を落とす。安心させるようで胸の奥を焦がすような、アルコールに隠れてしまいがちな彼女のにおいに酔いしれる。思えば昔からこのにおいが好きだった。
昔から嫌いだったのは、どんなに雪男が一途に頑張っても余裕の表情で、心も祓魔における技術も獅郎との関係性も、雪男よりずっと先にいることを見せつけていくところだった。それが羨ましくて悔しくて、それでもなお惹かれる自分を認めたくなくて嫌いだと言い聞かせていた。

戯れついでだろう、雪男の髪を梳く彼女のひやりとした指先が心地いい。このままずっと、こんなふうに、二人ですごす時を重ねていけたらどんなにかいいだろう、とまで考えて、らしくない考えだと自嘲した。雪男もシュラも祓魔師である以上常に命の危険と背中合わせなのだし、“絶対”はない。わかりきったこと。いくら雪男が願ったとしてもシュラは祓魔師をやめる気などないだろう。それは雪男だって同じことだ。それに奔放なシュラがおとなしく家庭に入るとも思えない。子供を持つことさえ身重になると嫌がるだろう。
神父さんや燐との家族のようにもうひとつのあたたかい家庭を持つ夢は叶わないかもしれないな、と苦笑しているとシュラに頬をつねられた。

「余裕だなー。アタシのこと馬鹿にしてんのか?」

言外に込められた、自分だけを見ろというメッセージがわかるようになった。少しずつだけれど、僕たちは互いにちゃんと近づけている。

「貴女のことを考えていました。」

雪男が素直にそう言えばすぐに、彼女の無意識で隠されていてわかりづらいながら嬉しそうな顔になる。手慣れているのに恋愛観はわりと純粋なのだ。

「……寒い。」
「……はいはい、わかりました。」

そう言って抱き着いてきたシュラに素直じゃないなあと思いつつもそこが可愛いとか、そんな馬鹿みたいなことを考えてしまう自分が可笑しいとか、思わず笑みがこぼれた。





これからの二人の話をしよう

(そのうちに、ね)



作品名:これからの 作家名:暮葉弥