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涼風 あおい
涼風 あおい
novelistID. 18630
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HappyBirthday

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ロウソクを全部いっぺんに消せたら、願い事が叶うのよ――。

昔母さんが言ってたことを、ふと思いだした。
目の前にはイチゴの乗ったまあるいケーキ。
テーブルを囲んでいるのは俺と、父さんと、母さん…ではなく。
「音無…これはいくらなんでも2人じゃ食い切れないんじゃねぇ?」
「それが一番小さいサイズだったんだよ。仕方ないだろ」
それにしても、と俺は思う。
目の前のケーキは手のひらを思い切り広げたくらいでは届かないくらいの直径だった。
食べ盛り育ち盛りの俺たちだ、量だけで見れば食べられないことはないと思う。しかし、目の前のケーキにはたっぷりと真っ白いクリームが塗りたくられていた。
甘いものは嫌いじゃない。むしろ好きだ。それでもこれだけの量をいっぺんに食べるなんて…食べる前から少し胸焼けがする。
「お前コレ半分食えんの…?」
おそるおそる目の前で着々と準備を進めている音無に問いかける。
「……。これは俺からお前へのプレゼントだぞ?」
キラキラしたものが飛んでいる錯覚を覚えるほどに完璧な笑顔が返ってきて、俺は思わず溜息をつく。
「それに…これくらい大きくないと全部差しきれないだろ?」
音無の手には18本のロウソク。
「これは難易度が高いな…」
思わずそんな事を口走ってしまったのは、母さんのあの言葉を思い出したからだろう。
「何か言ったか?」
「いや、何も」
今既に幸せを手にしているのに、これ以上の幸福を願うのは欲張りだろうか。
「よし!全部差せたな。火つけるぞ」
音無の指がマッチを擦る。一発で点いたそれを、差さずにいた1本のロウソクへ近づける。器用に片手でマッチの火を消すと、1本に灯った火を他のロウソクへと移していく。
音無の動作は無駄がない。無駄のない動作は綺麗だ。その綺麗な所作をぼーっと眺めている内に、全てのロウソクに火が灯った。
皆に火を分け与えるために最初に灯ったロウソクは、そいつだけ背が低くなっていた。
ロウソクが18本もあると、部屋の明かりを消してもテーブルの上は明るかった。
音無が少し恥ずかしそうに誕生日の歌を歌う。それを俺は幸せな気持ちで聞いていた。
「誕生日おめでとう、日向」
「ありがとな、音無。先にお兄さんになってやるぜ!」
「ぷっ…大して変わらないだろ、アホ日向」
出会って数年。付き合い始めて数ヶ月。両想いという幸せを手に入れたら、もっと他の幸せが欲しくなった。
――音無とずっと一緒にいられますように。
決して口には出さず、胸にだけ抱いて、俺はロウソクに息を吹きかける。
「あーおしい!あと1本だったのにな」
一番小さくなったロウソクの灯りが心細げに揺れていた。


「誕生日おめでとう!音無っ!」
「サンキュ、日向」
あれから俺たち2回誕生日を迎え、2つ年をとった。
1回目の誕生日も、2回目の誕生日も、そして今も相変わらず俺は音無の隣にいる。
因みにあれからまだ一度も全消しは達成できていない。
どんなに強く吹いてみても、なぜだか1本残ってしまうんだ。
それに対し音無は、18本だったロウソクが19本になり、20本になっても、いとも簡単に全消ししたのだった。
「今年もいっぺんに消せたな」
「普通消せるだろ。日向が下手すぎるんだよ」
ロウソクを吹き消すことに上手いも下手もあるか、と思いたいが、事実俺は毎年失敗し音無は毎年成功しているのだから、あるのかもしれない。
食べ盛りを過ぎた俺達には、6号のケーキは大きすぎて、とても食べきることはできなかった。
俺がケーキの刺さったフォークを持っていない方の手でお腹をさすりながら背もたれに身を預けていると、音無がまだ半分くらい残っているケーキを片付け始めた。
「音無が後で全部食べるのか?」
「ちげーよ。明日また、一緒に食べようぜ」
明日も一緒にいることが当たり前だと言うような言葉に、幸せを感じる。
「なぁ日向」
「ん?」
「一緒に暮らさないか?」
お腹が膨れて襲ってきていた眠気が一気に吹き飛ぶ。
断るわけがない。断る理由がない。
「いい…のか…?」
「日向ともっと一緒にいたいんだ。嫌か?」
「嫌なわけないだろっ…」
なんだこれは。今日は俺の誕生日じゃないぞ?音無の誕生日だぞ?俺がこんな幸せをもらってどうするんだ。
「やっぱり誕生日のロウソクは特別効くな」
え…?
「今年はもっと一緒にいられますように。去年は来年も一緒にいられますようにって願ったんだ。…知らないか?誕生日ケーキのロウソクのジンクス」
「昔…母さんが言ってた…。全部いっぺんに消せたら願いが叶うって…。じゃあ一昨年は?」
音無が俺の母親が言っていたジンクスを知っていることに対する驚きよりも、俺が誕生日ケーキのロウソクにかけたかった願いと音無のかけた願いが同じことに対して驚く。
「言ったら叶わなくなるだろ。一昨年の願いはまだ叶ってないから今は言えない」
そして一昨年の音無の願いはもしかしたら…。
「今は、じゃなくて一生、の間違いじゃねぇの?」
音無は驚いた顔で俺を見つめると、ふ、と笑った。



一生一緒にいられますように―――。

作品名:HappyBirthday 作家名:涼風 あおい