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お菓子と精神安定剤

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信じられない。何度目かのその言葉にリンクは、まだ根に持ってるんですかと冷たい一言。だって、と続ける言葉が怒りで震える。ああ、思い出すだけで腹が立つ!燃え上がる殺意を感じたのか、隣でリンクが諦めたようなため息をついた。


          *


 街に繰り出したのは、お菓子の材料調達のため。僕の監視であるリンクが僕から離れられるわけがなく、ならば一緒に行こうと提案した。丁度任務も入っていない。コムイさんに許可を取って、団服ではなく私服に着替えて街へと向かう。そういや街をぶらぶらするのは久しぶりかもと思うとなんだか楽しくなってきて、材料を買ったらすぐに戻るつもりだったらしいリンクに我が侭を言って、あの店この店を冷やかしていく。リンクも文句を言いながらも、(僕の勘違いかもしれないけど)それほど嫌そうな顔はしていない。多少のガス抜きも悪くないなあとのんびり思いながら、最後の店へと着いた。どうやら少し特別な店らしく、僕は入れないらしい。すぐに戻ってくるからここで待っていてくださいと言われて、ティムとじゃれてると人に当たってしまった。

「あ、すみませ・・・」

 謝ると、いかにもガラの悪そうなお兄さんたちが一人、二人、三人!ああ、これは暴力沙汰になるかなあと他人事のように思いながら少しだけ戦闘態勢を取ると、お兄さんたちは当たったことには特に気にしたふうもなく、にやにやとその気持ち悪い目を細めて僕を見た。

「いや、別にいいぞ」
「それよりも、一人か?」

 質問の意図がわからないまま、否と答えようとしたところで腕を掴まれた。そのまま肩まで抱き寄せられそうになって、ああそういうことかと思い当たって、必死で抵抗する。

「ちょっと、僕、男ですよ!他当たってください!」

 間違いは正しておかなければ。確かに僕の身体は誰かさんが言うように細くてモヤシのようで、もしかしたら、本当にもしかしたら女の子に見えてしまう時もあるかもしれない。それはそれで屈辱だが、しかし人間ならば誰だって失敗はある。ここは心を無にして、お兄さんたちに教えてあげなければ。
 そんな思いで言った僕の言葉は、お兄さんたちを一瞬きょとんとさせて、それからまた卑しい笑みに変わった。

「そんなことわかってるっての」
「あ、もしかして焦らしてんの?」
「いくらでついてくんの?」

 三人の言葉に何かがぷつん、と切れた音がした。加減なしで空いていた左手で、とりあえず目の前にいた男の顎に一発喰らわせた。

「てめっ、何しやが」
「それはこっちの台詞」

 まだ女の子と間違えて声をかけたなら、まだ許せる。成長途中のこの身体は、将来は立派な身体になるはずだが、今の時点では我ながら貧相な身体だなと思うから。でも、男だとわかっていて声をかけただと・・・!でもって誰が焦らしただと・・・!!そのうえ、いくらだ、と・・・・・・!!!
 僕の空のように広い心も限界だ。腕を掴んでいた男を投げ飛ばして、ノックダウン。さらに残った一人に肘鉄を喰らわせてそれで終わり。あーあ、口ほどにもない。ぱんぱんと手を払ったところで、からんからんと音がしてリンクが紙袋を持ってやっと出てきた。

「・・・・・・何してるんですか、君は」
「何って――ごみ掃除」


          *


 そして時間は冒頭へと戻るのだ。

「ひどいひどい!確かに僕は自分の身体が貧相なのを自覚してますが、あの仕打ちはあんまりだ!・・・・・・もっと徹底的にすればよかった」
「あれ以上は流血沙汰になりますよ」

 冷静なリンクとは反対に、僕はどんどんその憤りを増していく。もう自分でも止められない。

「ウォーカー」

 唐突に呼ばれて、振り向いた僕の口にひょいとリンクが何かを入れた。かりっと噛んだ瞬間、甘味が口の中に広がって、そしてそれだけで僕はとんでもなく落ち着いてしまった。

「この間作ったマカロンの残りですよ。少しは落ち着きましたか」
「うん、とっても」

 しかし気になるのは、どうして彼がマカロンの残りを持ち歩いているかだ。その疑問を正直に尋ねてみると、リンクは照れたようすもなくただ真顔でこう言った。

「君がお菓子を食べている姿が好きだからです」

 そういうのは女の子に言ってあげるもんじゃないのかな?
 その言葉を一生懸命飲み込んで、かわりにじゃあ、もう一個とマカロンを強請った。
作品名:お菓子と精神安定剤 作家名:kuk