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寝顔を見つめる

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時刻は6時を少し過ぎた頃。
今日も全く授業についていけず、ただ仮眠をとるだけの時間となった塾が終わりようやく寮へと戻ることができた。

「ただいまー」
『ただいま!』

ガチャリとドアを開け、頭に乗っかっているクロと同時に口を開く。
中は薄暗く雪男の返事もなかったので、雪男のやついないのかと思いながら靴を脱ぐと丁寧にそろえられている雪男の靴が目に入った。

(なんだ、中にいんのかよ)

あー、そういや今日は休みだとか言ってたな。
そんなことをぼんやりと思い出しながら部屋の奥に進む。
するとふいにベッドからかすかに寝息が聞こえてきた。
寝てんのか?と音のする方をちらりと覗くと、枕に顔を半分うずめて眠っている雪男の姿があった。
脇に立っている俺に全く気づいていない様子で無防備な寝顔をこちらに向けている。

(こいつ、最近遅くまで仕事してたからな…)

疲れた様子で熟睡している雪男を起こさないよう静かに自分の机がある場所まで移動しながら、小声でクロに「雪男寝てるから起こさないように静かにな」と注意を呼びかける。
頭の上でだらりと両手足を伸ばしていたクロは素直に『わかった!』と頷き、俺の頭から降りてちょこんと机の上でお座りをした。
言われた通り大人しくするクロの頭をよしよしと撫でてから、俺もなるべく音を立てないよう気を配り私服に着替える。
ごそごそと服を着脱しながら、同時に今日の夕飯は何にするか思考を巡らせた。

(やっぱ疲れてる時はスタミナ料理に限るよなー。でも肉買ってこないとねーぞ…)

買い出しに行くにも俺の小遣いの残金は残りわずか。
全員分の肉なんてとてもじゃないが買えるわけがない。
クソッ、あいつ月の小遣いが2000円札1枚だけとかふざけてんのかよ!まぁ、貰ってる身分でわがままは言えねーけど…。

(でもせめて雪男とクロには肉食わせねーとな)

もはや小銭入れと化している薄っぺらい財布の中身を確認する。
よし、かろうじて二人分の肉は買えるぞ。
早速買い出しに行こうとそれをポケットにしまい、「今から買い物行くけど、お前も一緒に行くか?」とクロに声をかける。
『うん、いく!おれもいっしょにいく!』と爛々と目を輝かせて嬉しそうに俺の肩に飛び乗ったクロを連れ、玄関先へと歩みを進めた。
その途中、雪男が寝ているベッドをちらりと横目で見やる。
相変わらずすやすやと寝息を立てて眠っている雪男の寝顔が昔と変わらないあどけなさを残していて、思わず足が止まった。


雪男は頭がよくてしっかり者で、俺が知らないうちにエクソシストになっていて、そのうえ先生までやっているすごいやつだ。
落ちこぼれの俺とは正反対で周りからの評価も高い。俺の自慢の弟だ。
でもこうしてふとした時に泣き虫だった頃の面影が垣間見られて、それがなんだか懐かしさを駆り立てた。
あどけない寝顔を眺めながら、幼い頃の情景を思い浮かべる。

いじめられている雪男を助けるために喧嘩ばかりしていた日々。
いじめられても言い返しもやり返しもしなかった雪男。
でも今は違う。今の雪男は強い。もう昔の面影なんて見当たらない。
けど、その中にも確かに昔と変わらない部分が残ってる。

――にいさん、

幼い頃の雪男の声が頭に響く。
昔の楽しかった頃の思い出が頭に浮かび、自然と口元がほころんだ。



『りん、どうしたんだ?かいものいかないのか?』

物思いにふけていた俺の顔を覗き込み、不思議そうに問うクロの言葉でハッと我にかえる。
首を傾げて見上げているクロに「あ、ああ、もちろん行くぞ!」と返事をし、止まっていた足を再び動かす。
『おれきょうにくたべたい!にくがいい!』と肩の上ではしゃぐクロに「おー、今日は奮発して俺特製のスタミナ料理だぜ!」と返すと、『ほんとうか!?やったー!りんだいすきだ!』と大喜びでぴょんぴょんと肩と頭を跳ねて回った。
そんなクロの様子にこっちも嬉しくなって笑顔がこぼれる。自分の料理をこんなにも心待ちにしてくれるやつがいると作りがいがあるってもんだ。

「よーし、今日も気合入れて作るから期待してろよ!」
『わーい!りんのりょうりたのしみだ!』

全身で喜びを表現するクロの姿にますます笑顔が深まり、心がぽかぽかと暖かくなった。

(それに、雪男のためにも一丁腕ふるってやらねーとな)

俺ってばすげーいい兄貴!と一人得意げに鼻を鳴らす。
こんなにいい兄を持ってあいつは幸せ者だな!本人に言ったら呆れられそうだけど。
そんなことを思いながら玄関のドアを開ける。
とびきりの料理を作ってあいつを驚かせてやる。そう意気込んで、一歩外へと踏み出した。


END
作品名:寝顔を見つめる 作家名:凛子