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大切をきずくもの

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そういえば、とふと思い出すことがある。あいつの瞳のことだ。


正確にいうと、あの瞳のまっすぐさだ。僕に向けられるあいつの瞳、それはいつでもまっすぐで、心の底の芯まで見透かすようなそれはちょっとこわくて、僕はいつも彼と話をするとき、その瞳から逃げたいとそればかり考えていた。それほどに彼の瞳はつよくて、甘えをゆるさない厳しさがあった。
彼の瞳があまりにつよいので、僕はその瞳が追うものをみるようになった。そうすると、彼はふだんそこまで厳しい瞳でものを見ていないことに気づいた。彼が厳しい瞳でみつめるものは監督や、僕らレギュラーと、せいぜい準レギュあたりくらいのものやった。それに気づいてしまうと、なんで彼はそんなつよい目でぼくらを見るのかが気になりだして、とうとうある日僕は彼に「なんで」と聞いたのだった。「なんでそんなにも厳しい瞳をして僕らを見るの」と。
すると彼はすこしうろたえるような姿を見せて(これは自信家で弱味を見せるのをきらう彼にしてはとてもめずらしいことだ)、「…俺、そんな目でおまえら見てるか?」と反対に聞き返してきた。彼が客観的に自分を見るのがへたくそなことは百も承知だったので「見てるよ」と軽く教えてあげる。すると、しばらく逡巡するような仕草を見せたあと、彼は「…気を抜くと、見えちまうんだよ」と言った。

彼の言うことには、彼はあまりに眼力が強すぎるせいで、ふだん気を抜いているとまわりの人間の骨まで透けて見えてしまう。それはテニスの試合のときなんかには役立つんだけれど日常を過ごすなかではとくに役に立たない。むしろ、まわりの人間が見ている景色とちがう景色が見えてしまうせいですごく不便だ。とくに顔などはきちんと見たいのに、見えない。あまりになにもかもを透かして見ていると本当に大切なものを見逃してしまいそうだから、大切な人間を見るときは意識して眼力を抑えているのだ、とこういうことらしかった。
僕にはそんな能力はこれっぽっちもないので、彼の言っていることはわかるようなわからんようなというところやったけれど、ではあの瞳でみつめられるということは彼の大切な何か、のなかに自分も入れているということやろうかと思ったらなんだか急にうれしいきもちになった。けれどそれを正直に伝えるのも癪だったので「ふうん」とそっけない返事をして、けれどやはり彼にきもちは隠し切れずに、「何ニヤニヤしてんだよ」と赤い顔をした彼に、かるくノートで叩かれたのだった。


そんな会話を交わしたあの日からはもう何年経ったかわからんほどで、僕は日々、過去を思い出す暇もなく過ごしている。しかしそんな日々の中でたまに、本当にたまに、あの瞳を思い出す。あの瞳と、あの会話だけは思い出す。僕はいつもあの瞳からは逃げたくてたまらなかったけれど、けれどあの瞳は、僕にとってとても必要なものだった。自分をみつめるとき、みつめようとするとき、自分1人ではみつけられないなにかをみつけようとするとき、僕は必ずあいつのあの青くまっすぐな瞳を思い出す。あいつの瞳ならたしかにみつけられる気がするのだ。「大切なものを見逃したくないんだよ」と言ったまだあどけなさの残っていたしろい横顔、その頬は日暮れの赤だけじゃなく血の色に染まっていて、いつだってつよくあった少年が、照れたように言ったことばは、それこそ大切なものだったんじゃないかと思うのだ。

あれから何年も経った今、彼はあの瞳で、なにを見ているだろう。なにを大切なものとして愛でているだろう。あどけなさを捨てた青い瞳は、僕をまた見てくれるだろうか。
そんなことを思いながら僕はまた、明日のための眠りにつく。
できることなら、次に会うときも大切な存在でいられるように。大切なものをなくさないように。とりこぼさないように、日々を繋ぎながら。
「おやすみ」
1人部屋のなかで呟くことばは、過去の自分と彼と、今の僕の大切なものすべてに。


作品名:大切をきずくもの 作家名:坂下から