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「この夜に全ての想いを」1 : 謝肉祭~外伝(仏日)【改題】

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 それからどの位の時間が過ぎたのか……
 正時を知らせる時計の音色が沈黙を破ると、それをきっかけに石化の魔法が解けたように、フランシスが動いた。
「……菊、俺から逃げないのか?
 出て行かないのなら、答えはイエスだと思っていいのか?」
 そして彼に触れようとした瞬間、菊は微かに悲鳴とも取れなくないうめき声を漏らすと、糸の切れた操り人形のようにくたくたとその場にくずおれた。
「あ……ぁ……っ」
「だ、大丈夫か、菊?!」
 フランシスは慌てて菊のそばにひざまずき、菊を抱き起こそうとした。
「見ないでフランシス、私を見ないでください、お願いです……!」
 菊は手で顔を隠していた。啜り泣く声が漏れ、頬から涙が滴り落ちている。
「……私は汚らしい裏切り者で、嘘つきだ。あの人に全てを捧げ、他の誰かを愛したりはしないとあれ程誓ったのに──
 私は人に愛される資格なんかない人間です。だからあなたも私のことはもう構わないで下さい……」
 フランシスは菊の額に掛かった黒髪をそっとかき上げ、白い額に優しくキスを落とした。
「なあ菊、知ってるか?この世に愛される資格のない人間なんていないんだ。誰かを愛したり、愛されたりするのに 資格なんか要らない。
 それにあいつだって死んだ訳じゃないし、もう他の人間と幸せになってる。その為に、菊はあんなに一生懸命頑張ったんだろう?
 さっき話してくれたよな、菊。あの話しっぷり、ほんとにあいつの事が好きなんだって俺にもよく分かったよ……でももう、あいつに義理立てするのはこれで充分じゃないのか?
 菊ももう幸せになっていいと、お兄さんは思うね」
 顔を見せてくれないか──そう言いながらフランシスはしっかりと顔を覆っていた菊の手を取った。
 人前ではいつも冷静でほとんど表情を見せない菊の顔は、子供のように頬が赤く染まって目が腫れ、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「み、見ないでくださいフランシス、こんな、みっともない──」
 菊を見つめるフランシスの菫色の瞳が優しく細められた。
「何で?かわいいよ、菊。いつもそんな風に、もっと素直に表情を見せればいい。俺はその方が好きだな」
 黒い瞳が驚いたように丸く見開かれたかと思うと、すぐに細くなり、目じりからまた涙が溢れ出した。
「キスしてもいいか、菊?……ああ、額にじゃない、唇にだ」
 フランシスが笑ってそう言うと、菊は黙って待ち受けるように目を閉じた。触れるだけの優しいキスが菊の淡色の唇に降りてくる。
 やがて名残惜しげに唇を離すと、片方の手は膝の上で菊の頭を支え、もう片方の手はそっと頬に伸び、唇をなぞる。
「菊の唇は柔らかいな……それにビスクドールの様にきめ細かい肌。神秘的な黒髪も素敵だ。そして、麗しい夜の闇を写し取ったような黒曜石の瞳。菊は……きれいだな」
「お世辞はやめてください、私は男ですよ。それに、あなた方西洋人と比べたら私なんか──」
 菊は目を逸らし、慌てて口をつぐんだ。あなた方は東洋人など所詮、黄色い猿だとしか思っていないんでしょう──そう言いそうになったから。フランシスに対して、そんな皮肉めいた言葉を口にしたくはなかった。
「遠慮深いんだな、菊は……まぁ、そんなところも好きなんだけど、お兄さんはもっと自信を持って良いと思うなあ。菊は、魅力的だ」
「え……っ?」
 笑っていたフランシスの目が急に真剣になる。
「菊は無防備すぎる、こんなに美しくてセクシーなのに。人前であんなに酔っぱらって意識を失うなんて、問題外だ。お前を狙ってるやつなんて、いくらでもいるんだぞ」
「それは、あなたと一緒だったからつい油断して──」
 菊ははっとして口を閉じたが、遅かった。フランシスはウインクし、にやっと笑った。
「やっぱりそうか?お兄さんの目に狂いはなかったってわけだ」
 菊は頬を真っ赤にして、思わず顔を背けた。
「ひとつだけ謝りたいことがあるんだ、菊。さっき言った事なんだけど……」
 フランシスの柔らかい掌が頬からほっそりした首筋をなぞる様にゆっくりと動き始める。
「菊が苦しそうだったから、楽にしてやろうと思って服を脱がせたのは嘘じゃない。ただ……」
「ただ……何ですか?」
 何だろう?不安になり、背けた顔をゆっくりとフランシスの方へと向ける。
「ベルトを外して服を脱がせたら、菊の肌があんまりきれいだったから……」
 この人は何を言おうと──?菊はフランシスの顔から目が離せなくなった。フランシスの手は首筋から鎖骨に向かってゆっくりと降りていく。
「菊のきれいな体がもっと見たくて、我慢できずに下も全部脱がせたんだ」
「フランシス!あなた、やっぱり──」
 絶句する菊に、フランシスは慌ててこう言い添える。
「ま、待てって!何もしてない、まだ何もしてないよ!……見ただけだって」
「本当ですか?」
「本当だって!……胸にキスひとつでもしたら、もう絶対我慢できなくなるに決まってるからさあ……分かるだろ、菊?」
 睨み付けていた菊の目がまたまん丸くなり、羞恥で頬が赤く染まった。フランシスの手は、いつの間にか鎖骨から胸に降りていた。敏感な部分をあえて避けるようにしながら、そっと辺りを撫でまわしている。巻き付けていたシーツはいつの間にかすっかり乱れて、腰のあたりをほんの気持ちばかりしか覆っていなかった。
 菊が慌ててシーツを掻き寄せて起き上がろうとすると、フランシスがまた後ろから菊を抱きしめた。
「もっと……知りたいんだ、菊の事……」
 耳元に唇を寄せてそっと囁く。耳まで真っ赤になりながら、菊はぎこちなく頷いた。

(終)