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後回しにしたからツケが回る

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テレビも何もついていない、静かな空間。唯一のBGMは外から聞こえてくる虫の声。
りんりんと綺麗な音色は風情に溢れていて心和ませる。もうすっかり季節は秋だ。
自然が奏でるメロディーはとても心地が良く、読書をするにはもってこいだった。
…ただしこのバカがいなければ、の話ですが。

「うわー、駄目だー!こんなの全然わかんねーよ!」

テーブルを挟んで私の向かいに座り、頭を抱えて嘆いている音也の前には溜め込んだ課題が山になって積まれていた。
先ほどから手をつけては投げ出し、また次の課題に手をつけては投げ出しの繰り返しで全く進んでいない。
どうやらどの課題も音也の頭では難しいらしく全く解けない様子だった。普段から予習復習どころか勉強を一切しないからこうなるんですよ。

「あと1週間で終わるかな…」

そう呟いてちらりと私の方に目をやる。
一瞬目が合うが特に気にせず本に視線を戻す。このバカが困ろうがなにしようが私には関係ありません。
そんな私の様子に音也は独り言にしては大きな声で「俺、この課題出さないともしかしたら退学になるかも…」とぽつりと漏らし、再び私の方に目を向けた。
そうですか。まぁ、自業自得ですね。口には出さず心の中で返事をする。少しでもかまったら最後まで付き合わされるハメになるのは明白だ。それだけは絶対に避けたい。

「うぅ…このままじゃ終わる気がしない…」

「どうしよう…」と泣きべそをかいて再度私の方をちらっと見やる。
なるべくそれを気にしないよう本に集中しようとするが、気が散ってしまい文字が頭に入ってこなかった。
…いい加減鬱陶しいですね。話す暇があったら手を動かせばいいものを…。というか何故私の方を見るのですか。
つのるイライラと思わず文句を言いたくなる衝動をぐっと耐える。もはや根競べだ。
その間にも音也は「ここどうやるんだっけ…?」「こんなの覚えてねーよ…」等とぼそぼそこぼしてはその度にちらちらと私の方に視線を向ける。
それが非常に苛立たしく、自分でも眉間にしわがよっていくのが分かった。
このバカは人を苛立たせる才能があるのではないかと思うほど煩わしさに長けている。全く、ストレスが溜まる一方です…。
その後もしばらく無言のやり取りが続いたが、いよいよ耐えられなくなり読んでいた本をバタンと音を立てて閉じる。
同時にさっきから溜めていた不満を言ってやろうと口を開いた私よりも先に、音也がようやく私に話しかけてきた。

「ねー、トキヤー。勉強教えて」
「断固お断りします!」

「というかさっきから一体何なんですか!鬱陶しいったらありゃしない、全く…!」と溜めていた苛立ちをぶつけると、「だってトキヤ、俺が困ってるのに教えてくれなかったじゃん」と不満そうに口を尖らせて音也はこたえる。
「当たり前です、何故私があなたを助けなければいけないのですか」と苛立ちをあらわにしながら言えば、「なんだよそれ、トキヤの人でなし!」とぶーぶー頬を膨らませた。
…本当にこのバカはいちいち頭にくる行動ばかりとる。だいたい、どうして私が勉強を教えることを前提としているのですか。
その後も「ねーねー手伝ってよトキヤー」「いいじゃん勉強ぐらいさー」「お前ならこのぐらい簡単だろ?」「お願いトキヤ!」としつこくねだってくる音也を適当にあしらい、「いい加減付き合いきれません」とこの場を立ち去ろうとする。
が、「ちょっと待ってよ!」と身を乗り出した音也に腕を掴まれてしまった。振りほどこうとするがぎゅっと力を込められなかなか離れない。

「ちょっ、離しなさいこのバカ!」
「勉強教えてくれるなら離すよ」
「なんですかそれ!というか手加減をしなさい、痛いです!」

離すまいと相当力を込めているのだろう、ぎりぎりと音也の手が食い込んでくる。これ以上握られて痣にでもなったら大変だ。
このバカは強引な手段ばかり使ってきてほとほと呆れます。こちらの意見も少しは聞いたらどうですか。

(実に不本意ですが仕方ない…)

音也はこうと決めたらそれを突き通すゴーイングマイウェイな性格だ。こうなってしまった以上、こちらが折れるしかない。
でなければこの茶番はいつまでも続くだろう。振り回されるこっちの身にもなってください、全く…。
そう腹をくくってため息を吐く。

「…分かりました。ただし、今日だけですよ。二度はありません」
「マジで!?やったー!」

観念してそう告げると、先ほどとは打って変わってぱぁっと顔を輝かせた音也は「ありがとうトキヤ!」と続けて満面の笑みを浮かべた。
そうしてようやく掴んでいた手をぱっと離し、すっかり放り出していた真っ白な課題と向き合う。
手伝ってくれるのがよほど嬉しいのだろう、その表情には一切の曇りがなく、解けないと散々嘆いていた課題を前にしても上機嫌で明るい笑顔を見せていた。

(本当に分かりやすい人ですね…)

じんじんと痛む腕をさすりながら、もはや怒りを通り越し呆れ混じりに考える。
たかが教えてもらうだけなのにどうしてそこまで嬉しそうなのか、私にはさっぱり分かりません。
…もしかしてすべての課題を教えてもらうつもりなのでしょうか?
まぁ、どう思っていようが私は今日だけだと断りを入れていますし、この積まれている課題すべてを教えるつもりはさらさらありませんが。
こんなバカの面倒を最後まで見るなんて絶対にごめんだ。
そんな私の気も知らず、当の本人である音也は早速「この問題分かる?」と課題を指差し言う。
「どれですか?」と指し示している問題を読むと、それは専門用語からの出題だった。

「こんなもの、教科書に答えが載っているじゃないですか。私に聞く前にまず調べなさい」
「え、載ってた?どこに?」
「だからそのくらい自分で調べなさい!」

「教えてくれたっていいじゃーん。トキヤのケチー」と不満を漏らしながらも、音也はようやくただ置いてあるだけだった教科書をぺらぺらとめくり始める。
が、なかなか見つからず、結局「面倒くさいから答えだけ教えて!」と言う始末。

(…これだから脳筋バカは…!)

どこまで人に頼るつもりなのでしょうか…!
まだ1問も教えていないというのに、この時点ですでに見捨てたくなる気持ちが沸いてくる。
しかし誘いにのってしまった以上、最後まで付き合う義務があります。
…ですが、この調子で果たして大丈夫なのでしょうか…?
相変わらず「トキヤ答えはー?」と回答を求めてくる音也のバカさ加減に、先が思いやられる…、と頭をおさえた。


END