夏の音
「暑っちぃなぁ~~~~」
窓の外は灼熱の太陽光。まだ初夏であるにもかかわらず温度計の赤い表示がグングン上昇していく。
元親の目には開け放した窓が逆さに映っていた。
「あぁぁぁ、なんにもやる気が起きねぇ・・・」
小一時間ほど前、あまりの暑さに床に倒れこんだ元親はそのまま床の上で動く気力をなくしていた。
「ああああぁぁぁぁ・・俺ぁマジで融けるかもぉ・・」
気力同様思考も融け掛かった元親は、そんなことを口走る。
もう本当にそろそろ体が融けるかもしれないと元親が本気で考えたその時、『チリン・チリン』と何処からか涼しげな音が聞こえてきた。
「?!」
『チリン・チリン・チリン』
ガラスを叩く涼しげな音。元親は、あまりの暑さに幻聴か?と思いながらその音に耳を傾ける。
『チリン・リチ・チリン』
最初は小さく聞こえていた音が段々と大きく聞こえ始め、元親の部屋の前を通り過ぎようとしたとき、涼しいその音とともに声が聞こえた。
「元親~、居るかい?」
「んぁ?!」
開いた窓の向こうから聞きなれた声が元親に声をかけた。
元親は、だるい体をズルズルと音がしそうな動作で起こし、これまたズルズルと音がしそうな雰囲気を出しながら開いた窓まで這っていく。
そして、窓から差し込む眩しすぎる太陽光に目を細めながら、声のする先を覗き込んだ。
「ああ、いたいた」
元親が覗き込んだ先の部屋下に、太陽の作る陽炎と共に慶次が相変わらずの笑顔で立っている。
元親はわざわざ暑い最中に現れた慶次に呆れるように言った。
「このクソ暑い中なにやってんだぁ慶次?」
「ああ、うん今日も暑いよね、だからねえ元親、川原の木陰に涼みに行かない?」
今にも解けそうな顔をした元親に慶次ニコリと笑いながらそう言う。
そしてそれと同時に、肩に掛けていたモノを小さく上げて元親に見せた。
『チリン・チリン・チリン』
慶次が肩に掛けていたモノは小さな笹の枝、その枝の先に透明に赤い模様が描かれた風鈴が一つ付いていた。
『チリン・チリン・チリン』
先ほど聞こえた涼しい音は、この風鈴の音であった。
元親は暑い最中に、風鈴を担いで街中を歩き、わざわざ自分を誘いに来たこの酔狂な親しき友に苦笑する。
そして重たい体をのそりと起こすと、部屋の暑さと部屋下の友に聞こえるようにこう言った。
「しかたねぇなぁ~~」
『チリン・チリン・チリン』『チリン・チリン・チリン』
暑い地面が陽炎に歪む。
そんな揺らめきの中を、涼しげな音と、大きな男二人が涼を求めて、歩いてくのであった。