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B.R.C 第一章(1) 闇に消えた小さき隊首の背

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#09.真実の姿【BR】



 限定解除。それは決して耳慣れない言葉ではない。
 しかし、どうしてもこの場で耳にするには違和感がある。
 限定解除は、現世に降りた隊長格に刻まれる限定霊印によって制御された霊圧を解放するものだ。尸魂界において耳にするはずがなかった。
 どういうことだ、と名を呼ばれた日番谷に視線が集まった。その視線の中で、日番谷は一つ微笑み、

「了解」

 左手の指先を首筋に添えた。そして、声高に唱える。

「限定解除!」

 日番谷の指先を中心に、彼の首筋に黒い印が浮かび上がる。限定霊印は各隊花を模る。けれど、彼の限定霊印の花はどの護廷十三隊のどれにも当て嵌まらない『牡丹』。
 黒く浮かび出た牡丹は、形を成した後即座に散った。
 途端。

「うおぉっ?!」
「くっ―――!」
「これは……っ」

 日番谷を中心に噴き上がる凍てつくような霊圧に、一護を中心に驚愕の声が上がる。
 日番谷の足下から床が凍り、浮竹と涅が足下に迫ったそれを避けて後ろに跳躍した。濃い冷気が白い幕となって日番谷の姿を覆い隠し、凍った空気中の水分がキラキラとわずかな光を弾きながら床に落ちる。
 室内を満たすのは、紛れもない日番谷の霊圧だ。しかし、桁が違う。
 封から解き放たれた霊圧は、護廷十三隊の頂点に立つどの隊長よりも上だろう。あの、莫大な霊圧を持つ更木よりも。数千年を生きる元柳斎よりも。
 全員が目の前の事態に言葉を失くす中、白い幕から銀の刀身が突き出す。それが横一文字を切れば、そこを中心に幕が消えて行く。
 そこにあるのは、彼らの知る日番谷ではなかった。
 白銀の髪は腰の辺りまで伸び、冷気を払って生じた風に緩やかにたなびく。その体躯は幼さを残す小さなものではなく、人間で言えば十六、七ほどの青年のものへと変化を遂げている。ただ、白銀の髪の合間から覗いた強い輝きを放つ翡翠の瞳が、彼が日番谷冬獅郎その人であることを証明していた。
 ヒュン、と氷輪丸を頭上に掲げたかと思うと、日番谷はそれを床に突き立てた。すると、そこから氷が駆け、瞬く間に副隊長とルキアを捕えていた男の身体を登り、その動きを封じた。
 肌を刺すような痛みが、男たちを襲い、そこかしこから悲鳴が上がった。
 男たちを苦しめ、縛る氷は、見事なまでに副隊長やルキアを避けており、彼らには怪我一つない。

「そいつらを離してもらおう」

 副隊長らを傷つけないために、彼らを抑えつける手は氷に覆われておらず、その手は副隊長らを捕えたままだ。その手を差して、日番谷が言う。

「おのれ日番谷……っ!! この様な事をしてただで済むと思うでないぞっ!!」
「うるせぇよ。さっさとしねぇと、手首から下が失くなるぜ?」

 ヒヤリ、と硬い感触。チリ、と走った痛み。それに視線をやれば、何時の間にか日番谷が自分の隣で松本を抑える手首に刃を添えていた。その事に、男は驚きよりも恐怖を感じた。
 男が、松本の腕を放す。

「無事か、松本」
「はい」

 問う声は、まさしく威厳ある隊長のそれ。
 戸惑いを押し隠し、松本は凛とした声で応えた。
 手首に強く握られて痕が見られたが、それ以外に目立った外傷はないようだ。それを確認した日番谷は、男から刀身を離し、他の男たちをちろりと見やる。
 その目に促されるようにして、男たちは次々と自分が抑えつけていた者たちを解放して行った。
 自由を得た副隊長らは瞬歩で男の傍を離れ、散った。
 これで、彼らは『権力』も『人質』も失った。残ったのは、日番谷に植え付けられた『恐怖』と、身体を戒める『氷』のみ。

「冬獅郎―――」

 戸惑うように呼ばれた。一護の声だ。
 日番谷は視線だけを一護に寄こした。彼の傍にはルキアと阿散井が居る。

「お前、一体―――」
「すまないが、その話は後だ」

 一護の問いは形となる前に、日番谷に消された。

「心配すんな。ちゃんと話してやるよ―――全部な」

 そう言って、日番谷は小さく笑った。しかし、それも瞬時に消える。

「今は、こいつらが先だ」

 見据えるは、中央四十六室の代行を名乗る男ら十三人。

「ねぇ、日番谷君。いいのかい? その人ら、中央四十六室の代行らしいけど」

 ひょい、と京楽は笠を上げ、自分のよく知る姿から少し高く、大きくなった背中に問う。

「そうだ、日番谷! そ奴らは、中央四十六室の権限代行人。これは立派な反逆だ!」
「あ、ああ、ああ! 砕蜂隊長の言う通りだ! 我々への冒涜は中央四十六室への冒涜!! 処刑は免れまい!!」
「ああ、そうだろうな。だが、それは、四十人の賢者と六人の裁判官から中央四十六室が構成されていることが前提だ」

 日番谷の言葉に、死神たちは訝しげに眉を寄せ、男たちは息を呑んだ。

「ほほう、面白いことを言うネ」

 長い爪の先で顎を掻きながら、涅が言う。

「な、何を、馬鹿な……」
「残念ながら」

 震える声で否定しようとした男の言葉を切ったのは、ふわりと宙から舞い降りた黒いマントに身を包んだ男だ。
 男は日番谷の隣から一歩前に歩み出る。
 身長は一護と同じか、それより少し高いくらいだ。黒マントに隠されてはいる身は細く、決して大柄ではない。

「調べはすでについている」

 マントの下から、数枚の書類を取り出し、それをヒラリと振った。

「禁踏区も包囲している。お前たちに逃げ場はない」
「わ、我々は絶対の存在! 貴様らとて逆らうことは―――」
「お前たちは、自分たちが最高位だと信じて疑っていないようだが、それは“尸魂界において”言えること」

 黒いマントが、バサリと音を立てて取り払われる。その下から現れた衣服の左肩には牡丹の紋、そして、背に刻まれた数字は『零』。

「零、番隊……」