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はじめまして、あいらぶゆー

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この世に生を受けた時から、自身の運命は決まっていた。
地位にそぐうような教育、行動、発言、品格。全てを強制的にも兼ね備えていなくてはならなかった。
その上周りにいるのは自分のことしか考えてない臣下達。子供でも見抜ける上辺だけの敬意に飽きたのはもう数年も前の話だ。
世間で言う「両親」と呼ぶ存在とまともに会話をしたのはほんの両手で足りるほど。

ただ求められていたのは、今の国王の次に国を統べるに相応しい優秀な後継者であること、それだけだった。

(嗚呼、面倒くさい)(つまらない)
(こんなもの、全て無くなってしまえばいいのに)

国も、地位も、王も、臣下も、国民を、自分に過去から未来まで押し付ける全てを無にできたら。
十に満たない齢にして、此処まで自身を変えてしまった存在全てを、日々也は恨むようになっていた。




そんな日々也の世界を変える出来事が起こったのは、それから二年後のことだった。




春に向けて生命が芽吹き始める三月、十も下となる弟が誕生したのだ。当然城内や国民はそれを祝福し、国の繁栄と健やかな成長を祈った。
しかしその影で戸惑うもの、焦るものも多くいた。それは国を継ぐのは日々也、ただ一人だと思っていたからだ。
生まれたのが姫であったのならば、そうはならなかったのだろう。だが生まれたのは王子で、それは同時に後継者が新たに増えたことでもある。
兄弟間で政権争いが起こることも少なくない時代なのだから、表では祝福していても実際は不安を抱いているのは当然だろう。
だがそれとは正反対に日々也はこれ幸いと喜んでいた。
その時は単純に弟の誕生を喜んでいたのではない。国のトップに立つ、という煩わしい可能性が少しでも減ったことに対して喜んでいたのだ。
いざとなれば全て弟に押し付けるように手回しすればよい。そうしたら自分は全てから開放される。
そんな未来を思い描いて、日々也は生まれたばかりの弟を憐れみつつも笑みを堪えきれずにいた。



***



弟が生まれて二週間以上の月日が流れていたが、母親は勿論赤ん坊にもずっと顔を合わせることはなかった。
しかしずっとそれではまずいだろうと、日々也は形ばかりの見舞いのため母親と赤ん坊のいる部屋を訪れた。
母親は丁度赤ん坊をベッド代わりの籠に寝かせたところだったよう。音に気づいた母親が顔を上げ、日々也の存在を認めると嬉しそうに微笑んだ。

「まぁ日々也、来てくれたの?」
「お母様…長らくこれなくて申し訳ありません」
「いいのよそんな、来てくれただけでも嬉しいわ」

表だけの笑みでも母親は心底嬉しそうに笑い返してくる。「見て、」と柔らかい声音が響いた。

「貴方の弟よ、見てあげて」
「…はい、」

正直気乗りではないのだが、母親自体は嫌いではない。弟の姿も一応拝んでおこう、そう思い日々也は籠の傍に立った。
ひょこと籠の中を覗く。染み一つない柔らかな布に包まれた存在がその赤い目に映った。

顔、体、手、全てにおいて小さなパーツ。すうすうと寝息を立てていて、閉じられた瞼の奥にある瞳はどんな色をしているのだろう。
目の当たりにした存在は、全てにおいて初めてのものばかりだった。

(…小さい)

自分もこんな時があったのだろうか、そう思えば不思議なものがある。
すると赤ん坊が小さく体を揺らし始めたので、どうしたのかと思っていると、赤ん坊のまぶたはゆるゆると開き始め、そして。


空を思わせる青い色を、そこから覗かせた。


「ぁ、」
「あらあら、目が覚めちゃったの?」

驚く日々也とは反対に、母親は大したことないように笑う。その間赤ん坊はぱちぱちと瞬きをし、そして初めて見る顔―日々也に焦点を当てた。
真っ直ぐすぎるそれに見つめられて日々也は息が詰まった。自分の思考を見透かされる、そんな気がしてしまって。
身代わり、代替品、そう考えてしまっている自分を恨むように、咎めるように。純粋すぎるそれは自分を見ている、気がした。


だが赤ん坊は、


「うー……きゃぁっ」
「っ……」

日々也の腹の中を知る由もない赤ん坊は、日々也に向かってにぱっと微笑んだ。
誰もが純真無垢、と称するであろう笑みを、自身を身代わりにしようとしか考えてない相手に対して、惜しげもなく捧げたのだ。
その笑みを見たとたん、日々也は言葉をなくし、赤ん坊に見入っていた。それを気にすることもなく、赤ん坊はきゃっきゃと笑った。



なんで、笑ってくれるんだろう。自分は君のことを、ただの身代わりにしようとしたのに。
―それは、知らないから。日々也のことを何も知らないから。
だから笑える、裏表のない笑みで。日々也のことを自分の大切な人だと思いながら笑えるのだ。



滑らかな頬にそっと触れると、子供特有の高い体温が手を通して伝わる。とくん、日々也の心臓が高鳴った。

(…なに、これ)

日々也は新たに自分の中で生まれる感情に戸惑った。
今まで誰に対しても持つことのなかった、自分には一生縁のないものだと思った感情。甘ったるくて、反吐が出て、むず痒くて、でもどうしてか鼻の奥がつんとした。
その感情を打ち消そうとしても、一度自覚してしまえばそれは難しく、寧ろ日々也の胸中に溢れかえる。
一生、持つことはないと思った。与えられないと思った、その感情。



(俺は、)
(…この子を、守りたい)

何も知らないこの存在を、こんな自分に向かって笑ってくれた小さな存在を。
守りたい、この子が傷つかないように。この手で傷つけるんじゃなくて、この手で守りたい。




その日を境に、代替品だった弟は、守るべき愛しい存在へと姿を変えた。