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必要なもの

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「全く君は俺の話を聞いてるのかい、さっきからぼーっとして。折角俺が君のスコーンがいかにまずいか語っているのに」
目の前で延々と文句を並べたてているアルフレッドがじっと見つめてくる。
どうせ文句を言うのなら食べなければいいではないか。
小さく溜め息を吐いて立ち上がる。
毎回相手をしてなどいられない。
「帰るのかい?」
「俺だって忙しいんだ」
上着を手に取る。
未だお互い素直になれずにいる。
「じゃあな」
振り返りもせず家を出た。


無意識に足が急ぐ。
大して変わるわけでもないのに。
声が聞きたい。
昨日の夜電話で話したけれど。
触れたい。
会えるときには充分すぎる程に抱き締め合うのに。
会いたい。
温度を感じて安心したい。
家を離れて弟の所に来た意味がない。
頭の中は隣人のことばかり。
全く近頃の自分はどうにかなってしまったのだろうか。
1000年くらいの喧嘩相手が恋人になったくらいでこんなにも動揺している。
喧嘩ばかりの頃からずっと意識してきたのだけれど。
帰ったら1番に何を言われるだろう。
おかえり?
随分と早かったと言われるだろうか。
勿論会いたいから早く来たなんて言わない。
アルフレッドの言い方にむかついたとか、そんなことでごまかして。
携帯が鳴る。
メールの内容は「帰りに寄って欲しい」というものだ。
愛の言葉なんかは無視をして返信。
「仕方ないから寄ってやる」とだけ。
これで堂々と会える。
小さく笑った。

end

作品名:必要なもの 作家名:ツタガワ