prologue;newmoon
昔は一ヶ月の始まりの日だったけど、今では大部分の人が気づかない存在。それとも、幽霊棟に住む人間は知ってるかもしれない。だって本当に、外が真っ暗になるから。冒険者になるにはうってつけの日。
俺は賢太郎を連れて歩き出す。あの乳の道を歩くために。天の川を泳ぐために。今日は星が誰にも邪魔されずに生き生きと輝きだす夜。気温はだいぶ下がってきたけれど、まだ夏の星座も見られる。デネブもアルタイルもベガも元気だ。
今日は運良く、雲もない。俺と星空の間には敵は誰もいない! そんなことにうきうきしながら、今はきっと誰も来ない秘密の場所で、最後の火遊びの、最後の確認。
瞠はこんな傍目ではただの星空観察でも一緒に連れて行ってほしいというだろうか。あの手紙を出してもまだ言ってくれるかな。
晃弘に静かな夜明けをあげたい。心地よい夜明けを。
煉慈の書く景色の中に煉慈も入れたらいいのに。
春人は、もっと夜を楽しめるようになったらいいのに。
咲は、田舎の生活が意外と似合っていると思うんだ。
兄ちゃんは、来てくれるかな。俺のことなんか忘れようとして封筒を開封してくれないかもしれない。
兄ちゃんはもう、星の名前なんて忘れてるんだろうか。星座の形なんか興味がないんだろうか。「定規座とか作る学者も適当にもほどがあるだろ」と笑ってた兄ちゃんはいないんだ。俺と一緒に空を見上げて星をつないで作った星座も忘れてるんだろうな。
先生は、どんな顔になったって、鉄平の一番の恩人だもん。助けてくれないはずがない。
鉄平は、見たことがあるだろうか。ここの真っ青な空と、プラネタリウムとは一味違う本物の迫力ある星空。きっと、演技の足しになったのに。
大丈夫、俺が連れてってあげる。幽霊棟の6人はどこまでも走って行ける。一緒にいた証は食堂においてきた。これからもずっと一緒だ。一緒だよ。もう誰にも、俺たちを壊させない。
あとは俺が、みんなが魅力的に思えるネヴァジスタへの切符になればいいだけ。図書室の呪縛に負けないものになるだけ。帰るべき場所なんていらなくなるはずだ。
作品名:prologue;newmoon 作家名:さかな