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清史郎は死んだ。胡桃なんて馬鹿げたものは持たずに清史郎が通った高校に向かう。手紙が送られてきていたが読んだり読まなかったりしたせいで、結局俺の中の清史郎は五歳のイメージのままだった。
嫌いだったわけじゃない。傷つけたかったわけじゃない。でも、何もしないことは清史郎にとって一番傷つくことかもしれない。死ねといわれているようなものだったのかもしれない。退屈を何よりも嫌う弟。
だが、死者を侮辱しようとするヤツは許さない。俺の弟だ。誰かの退屈しのぎにはさせない。
採用通知が届いた。関東圏の全寮制男子校。願ってもない環境だ。生徒たちは怖くないかな? 舐められなければ大丈夫。ちゃんとしてれば大丈夫。胸を張って、僕に教えられるものをきちんと伝えられるように。望まれたら惜しみなく全力で。
こんな時期に退職された方はご病気か何かだろうか。その方のためにも頑張らなくちゃいけない。親しみやすくて、頼りがいのある先生と思ってもらえるように。
僕は教師になる。過ちは繰り返さないためにあるんだ。
清史郎は生きていた。派手なイベントで大掛かりに消えたわりに、戻ってくる前のお願い事が可愛い。僕は独りでいることが多いから、人が近づかない部屋の門番なんてうってつけとでも言いたげ。そうだな、清史郎がいないと少し退屈。メールでもくれればいいのに。
ゲームは面白いほうがいいに決まってる。サプライズも大歓迎。でもちょっと、僕の気持ちも考えて欲しかったかな。
今度は何のいたずらを考えているの?
清史郎が頼ってくれた。字面だけ見たら不吉な文言だけど、お墓は嫌いじゃない。そこに死者はいないかもしれないけど、その前に立てば想いを繋げられる気がするから。本当に、怖くなんかないよ。ちょっと、外に作った大切な場所ってだけじゃない。そこの受付係って言ったらかっこいいじゃない。俺に任せてよ。夜に見回りとかするわけじゃないし。え、そうだよね?
一緒に悲しむから、早く帰ってきてよ。
清史郎がまた、何かをしている。冗談じゃない。わかってるだろ? いいか、俺は忙しいし体力自慢でもなんでもないんだからな。自分勝手もいい加減にしろ。大体、書いてあることが抽象的すぎる。文章は意図がわからなかったら存在意義がないんだ。伝達ミスで俺が無駄な作業をするなんて真っ平だぞ。手伝えなかったらどうする。帰ってきたら説教だからな。
そもそも、自分一人で処理できないような面倒事には相談なしで首を突っ込むな。
清史郎の願いなら何でも叶える。僕にできることなら。この学校でそれができるのは僕だけ。清史郎の役に立てるのなら、この地位も悪くないのかもしれない。すべてのことがこのためだけにあったと思ったら、生きていける。いや、この身を捧げてもいい。たとえ僕が死霊になったって構わない。夢をみるってこういう感じなのだろうか。この考えのきっかけを教えてくれたのも清史郎。幸せな振りだってできる。
これが終わったら、清史郎に会えるんだね。
清史郎が何を考えているのかわからない。いや、わかる。清史郎はみんなのことも、俺のこともわかりすぎてる。俺が選べないことも知ってる。苦しめってことか。全部俺のせい。俺のせいなのも知ってる。清史郎は本当にみんなが好きなの? うん、わかってる、どれだけ好きなのかは痛いほどわかってる。当たり前すぎて、誰も気にしないこと。でも俺の頭の中では、不安が壊れたレコードみたいに同じところをぐるぐる回る。
ねえ清ちゃん、俺のことは、好き?
……And then?
作品名:Start ; Re 作家名:さかな