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龍吉@プロフご一読下さい
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novelistID. 27579
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世界が終わる夜に

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私が神様だったら、こんな世界は作らなかった。
私が悪魔だったら、こんな世界は作らなかった。

こんなに平等で無慈悲で暖かい世界なんて、余りに残酷すぎるから。




世界が終わる夜に




突き抜けるような快晴だ。
だが、公孫勝は嫌な胸騒ぎがしてならなかった。いや、直感といってもいい。絶対的な予感が躰を支配していく。
「劉唐」
隣にいた劉唐に声をかける。
「致死軍を集めろ。私の隊だけでいい。集めたら、下で待っていろ。私は、呉用に話を付けてくる」
劉唐の気配がすっと遠くなる。公孫勝は可能な限り、急ぎ足で歩いた。この一瞬すら惜しいほど、本能に近い何かが公孫勝を急かす。
急げ。
急げ。
間に合わなくなる。
文治省に入ると、呉用が呆然と見上げてきた。
「公孫勝?顔が怖いぞ」
「開封にて、緊急の任務が生じた。致死軍小一隊の出動を要請する」
「あ、ちょっと待て。えっと、何の任務だ?」
「緊急だと言わなかったか」
自分でも思いがけないほどの大声になってしまった。呉用はまたもや目を剥いて、唖然としている。
「いや、でも」
「要請を認可する。ただし、報告はしっかりしろよ?」
呉用の後ろの扉から現れた晁蓋が言う。
「感謝します、晁蓋殿」
「え、え?ちょ、晁蓋」
「いいから。行かせてやれ」
踵を返して、公孫勝は文治省を後にした。石段を降りると、黒衣の軍団が整列していた。小隊一つ分、公孫勝が率いている軍だ。
「揃っています」
黒い布の間から、劉唐の青い目がこちらを向く。公孫勝は頷いて、布を引き上げた。
「行くぞ」



一体どれだけ駆けただろうか。
公孫勝率いる致死軍は、平野を駆けていた。陽はすっかり高くなり、公孫勝達の足元に影を落としていた。
顔を上げると、二頭の馬が追われてくる。駿馬を駆る男。生きていた。
致死軍を散らし、馬止めの柵を崩す。奇襲を予想していなかった敵は簡単に崩れた。
崩した柵の間を、二頭の馬が駆け抜けて行く。すれ違う一瞬、目が合った気がした。
「生きてるのか」
安堵する。追っ手の中に、追いつける者はいないだろう。適当にあしらって、公孫勝は軍を撤退させた。


「で、報告は?」
文治省に戻ると、晁蓋がにやにやしながら待っていた。
「任務に向かう途中、同志が敵の罠にかかり窮地との情報を得たので、任務を撤回し救出に向かいました。同志の救出には成功しましたが本来の任務に向かうことが出来ず、作戦は失敗しました」
「その責任は、どうする?」
「命で贖えるなら、ここで死んで見せますが、私は今後の働きによって償おうと思います」
「いい判断だ。では、今後の働きに期待する」
「失礼します」
部屋から出ると、劉唐が扉の外で待っていた。
「引き回して、済まなかった。頼める者が、他にいなかった」
「公孫勝殿は」
劉唐が目を伏せ、迷うように視線を泳がせる。
「なんだ」
「俺が捕まっても、同じように助けに来てくれますか」
蚊の鳴くような声で、劉唐が言う。
「私情を見せるな、劉唐」
「すみません」
「私は、きっとお前を助けないだろう。楊雄も、孔亮も」
劉唐が目に見えて落ち込む。感情を殺すのは、やはり難しいことだろう。
「だが、安心しろ」
劉唐の頭に手を伸ばす。劉唐は泣きそうな顔をして、公孫勝を見つめてくる。その顔をぐっと自分の顔の前まで引き寄せる。
「止めは私が刺してやる」
軽く劉唐の唇を啄んで、躰を離す。
「お前の終わりは、私だけのものだ」
呆然とする劉唐を置き去りにして、文治省を後にした。向かう先は、診療所だ。

夜も更けて、診療所の玄関は閉まっていた。診療所の廊下についている窓から侵入する。辺りに人影は見えない。部屋を一つ一つ、見て回る。探し始めて七つ目の扉の隙間から、月明かりに浮かぶ寝台の上で眠る一人の男の姿が見えた。足音と気配を消して、寝台に近付く。
魘されているのか、何か寝言を言っている。
「公孫勝」
名前を呼ばれ、びくりとする。しかし起きている風ではない。寝言か。
「お前には、分かるはずだ」
寝台に腰掛けて、男の頬を撫でる。男の唇がぴくりと震えた。
「愛するものが知らないうちに遠くへいってしまうことが、どれだけ切なく哀しいことか」
腰の剣を抜く。
「そんな思いを、私に二度とさせてみろ。私がお前を、殺してやる」
鼻先が触れ合うほどの距離で顔を覗き込みながら、男の喉に刃を当てがう。
再び、寝言を紡ぐように唇が蠢いた。

「ありがとう」

剣を持つ手から、力が抜ける。男の頭の両脇に手を突いて、男の顔を見下ろす。
「馬鹿だろう、お前」
顔が泣きそうに歪んでしまう。
「殺せるわけが、ないのに」
それこそ、命で贖えるなら殺してしまいたいくらい。
顔がくしゃくしゃになっているのが、自分で分かる。男の胸に額を預ける。暖かい。この熱が今は、自分を生かしているのだと感じる。
縋り付きたくなるのを抑えて、寝台から離れ部屋から出る。扉が閉まる直前、振り返る。しかし、男の顔は見えなかった。

破壊と創造を繰り返すこの世界で、二人が出会ったのは奇跡にも近い偶然なのだろう。
なのに、二人に死が訪れるのは絶対的必然だ。
どちらが先に死んだとしても、私の世界は終わるのだろう。
どちらかが欠けた世界では、きっと自分は生きていけないから。

だからどうか。

世界が終わる夜には側にいて、私を抱き締めていて欲しい。










































「…………行った……か?」
恐る恐る、薄目を開く。部屋にはもう、あの白い人影はない。
深い溜息を一つ吐き出す。
「こ……殺されるかと思った」
あそこで、言葉の選択を間違ったら死んでいた。
最後、立ち去り際の一言は聞き取れなかったが。
「それにしても」
顔を両手で覆う。
「明日からどんな顔して会えばいいんだ」
好意をあそこまで見せつけられて、顔がにやけない訳がない。
どんな夜でも、必ず明けて明日が来るのだ。

例え世界が終わったとしても。

「あいつしか、目に入らなくなるじゃないか」
愛おしくて、堪らない。
こんなんじゃ、あいつとまともに話せない。
「まあ、いいか。明日ゆっくり考えよう」
明日がある。
明けない夜は、ないのだから。