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弁当

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「昼を・・・・一緒に、と思ってな」
チャイムと同時に大きな弁当袋を下げてやってきた真田は少し照れくさそうに斜め下をむいて柳にそう言った。部活が一緒になって仲良くなってから初めて昼を一緒にと誘ってみた。
「俺も、弦一郎の教室にいくつもりだったんだ」
柳は静かに席をたって弁当を持って真田にむきなおった、真田が恥ずかしがるから柳も少しだけはずかしくなって気疲れないように周りをきにして「いこ」と真田の手をひいて早歩きをした。途中で丸井やジャッカルに声をかけられたものの二人は気付く事もなくもくもくと足を進める。どこで昼食をするかもきめていないし、宛てはなかった。
「屋上の解放は無いから・・・そうだ、あそこ」
「蓮二?」
柳はひらめいた、立海の屋上は常に解放されているわけでなく今回は残念な事に屋上にいけず静かに二人で昼食となると柳には思いつく場所がひとつしかなかった。
腕をひっぱられながら柳の後頭部をみつめる真田、残念な事にこの足がどこへむかっているのかは見当もつかないが蓮二の事だ、きっといい場所を知っているのだろうと信じきっていた。
「ここなんだが」
「こことは?」
柳が指差した場所は長い長い非常階段の上の方だった、ゴミ捨て場が近い、確かに昼時だと言うのにしずかで二人になるには最適だろう、しかしここは非常階段、非常な時にでしか使ってはいけない場所だ。風紀委員を勤める真田は掴まれていた腕をふりほどいて「たるんどるぞ蓮二!!」と怒鳴りつけた。
「ここは!!立ち入り禁止の場所ではないか!!」
「しかし、俺はここしか知らないんだ」
みるみるしょげる柳に、真田はぐっと言葉をのんだ。そうだ、自分が昼に誘ったと言うのに場所を蓮二任せにしてしまった自分にも非があるだろう、それなのに蓮二を一方的に責めて・・・
「なんて小さい男なのだ・・・俺は・・・」
二人してしょぼくれている、よくよく見ると昼休みはもう半分もすぎているではないか。俺たちはただでさえ食べるのが遅いのにあと半分では授業に間に合わなくなってしまう、真田は心の中で「ごめんなさい!」と謝りながら柳の腕をひっぱりその階段をずんずんとのぼりはじめた。
「げ、弦一郎?」
「何もいうな!今日だけだ!!!今日だけ!!!」
まるで自分にいいきかせているように声を張る真田の後ろ姿をみて柳はふふっと笑った。
あの堅物の弦一郎が自分との昼の為に風紀を乱してこの階段を上ってくれている。それが嬉しくてたまらなかった。
「一番上までいけばいいのか」
「ああ、一番上は多少広い。足をのばして食べれるくらいの広さはあるぞ」
「・・・そうか」
階段をのぼっているうちに真田ものってきたのか足取りが軽くなっていく、柳は少しドキドキしていた。
「ここか」
「ああ」
階段をあがりきると立海のグラウンドが一望でき、しかし大きな木の影になっているだろうからこちらは向こうから見える事はないだろうその場所に立ち真田は少し大胆な気持ちになっていた。
「すごいぞ蓮二!!ここは!!」
「ああ、ここからはなんだって見える。ほら、あそこにはテニスコートも見えるんだ」
「ほんとうだな!!!」
「ああ!!!」
一望できるそのスポットに興奮して真田の声はどんどん大きくなる、つられて蓮二の声も大きくなっていった。そうなんだ、この場所は絶対弦一郎が気に入ってくれると思っていたんだ!!と真田の両手を掴んで少しはねながら言うと急に真田の顔が真っ赤になった。
「・・・すまん、興奮して、つい」
「あ・・・・いや、俺も。」
ぱっと手を話してそっぽをむき腕時計を見るとまた時間がそのまた半分になっていた。
「弦一郎、大変だ!!!」
「あ!!!あと15分だと??!いかん!授業に間に合わなくなってしまう!!」
いそいそと弁当を取り出して食べ始めるとお互い無言で箸を動かすのみとなった。せっかくの二人での昼食なのに、そう考える暇もなくチャイムがなったのと同時に食べ終えると二人は顔を見合わせて「ごちそうさま」ときっちり手をあわせた。
チャイムがなってから5分で教室まで戻って授業の用意までしなければならない。そうすると歩いて帰るにはここからでは距離があると食べたばかりだが二人は階段をかけおりた。
「蓮二!おそいぞ!!」
「5分あるだろう、俺たちの足なら全力をださずとも大丈夫だ!!」
「そうか!だが、全力でないのもしっくりこん!!」
「そう言うと思った!」
全力を出し走る二人の会話はきっとまわりには聞こえていないだろう、またジャッカルに声をかけられたのに二人は気付く事無く走っていく、俺、あの二人に嫌われてんのかな。といらぬ心配をジャッカルにさせている事など知りもしない。
「今日はゆっくりできなかったから、また明日昼に誘ってもいいだろうか?!」
「ああ!・・・・しかしもうあそこはいかんぞ!」
「なんだ!気に入っていたくせに!!!」
「そうだが!!!!あそこは立ち入り禁止だ!」
走っているさなかでもその意志は曲げない真田にまた少し笑いたくなりながらスピードを落とさずに走る柳。もうすぐ自分の教室についてしまう、と急に弦一郎の腕をひっつかんで足をとめた。
「な!!!!」
「明日も、お昼一緒にな」
「あ、ああ・・・な、なんだ、そんな事でとめおって・・・」
「ちゃんと、いいたかった。」
「む・・・」
急な柳の静止と改めて誘われた事に真田はまた恥ずかしくなってそっぽをむいた、もうF組の前にいる、あとは早歩きでも間に合うだろう。
こんどこそちゃんと柳を見て、「明日な」と小声で返すとさっと目をそらして早歩きでA組に向かおうとする。しかし蓮二は大声で「明日!」と言うからまた真田は蓮二の所まで戻っていって蓮二にしか聞こえないくらいの音量で「あと・・・あと一回くらいなら・・・・また、あそこにいってやっても、かまわん。じゃあな。」とぎれとぎれに言った真田の言葉をかみしめて柳はまるまった真田の背中を見つつ見送った。





END
「あと、一回だぞ。あと一回!!!」
作品名:弁当 作家名:Rg