退屈しのぎ
氷帝に頼んで場所を貸してもらうにも氷帝とはついこの間練習試合をしたばかりで連日頼むわけにもいかんだろうと弦一郎は首を縦に振らなかった。
日長だらだらゲームやってられると仁王と赤也と丸井は狂ったように喜んでいたが、弦一郎はつまらなそうに鼻をならしていた。
いきなり予定が無くなると言うのは少し調子が狂うのだろう、俺はそんな弦一郎の家に突然ながらもお邪魔した。
冬をすぎて今は日がさせばぽかぽかとあたたかい。縁側で菓子を用意して読書をするのも悪くないだろう。俺はそわそわ落ち着かない弦一郎の腕をひっぱって縁側に座らせた。座らせて俺はその膝に頭をのせる。驚いて目をぱちくりさせている弦一郎に俺はニッと笑ってみせて何食わぬ顔で本をよみはじめた。
半時もすぎれば文庫本だ、すぐに読み終わる。俺は本から目を離すと弦一郎と目があった。
「ずっとそうしていたのか」
「ああ」
「…半時も俺の読書姿をみていたのか」
「退屈しないな」
「物好きめ」
「お前は本を読んでる時に表情がころころと変わるのだな」
「そうか?」
「ああ、ずっとみてた。」
「…」
恥ずかしくなって弦一郎の膝から起き上がると用意した菓子は減る事なくその場に同じ姿でのこっていた。
三十分間も俺をみてたのか、このバカは。呆れた。
「楽しかった」
「ならいいけど」
弦一郎は俺と二人でいる時はよく笑う。
「お前と読書は楽しい。」
「何度も言うな、恥ずかしい。」
「珍しい、お前が照れる事なんてあるのだな。」
「ずっと眺められていたと知れば恥ずかしくもなるさ。」
「お詫びに今度俺の稽古を覗きにくるか?」
弦一郎、狙いすましたような事をしたと思ったら今度は天然を発揮するから調子が狂う。
「いや、遠慮しとく。」
照れなくてもいいんだぞ?顔が真っ赤だ。などとずっと俺のあとをひっついて回るから縁側に押し倒してそのまま眠った。嘘寝だ。この陽気でこの体制なら確実に弦一郎だって寝るだろう。
弦一郎が寝たら俺は起きてずっとその顔をみていてやろうと思う。ずっと、そうだな、倍返し、1時間はみつめていてやる。そして起きた時に言ってやるんだ。
『お前の寝顔は飽きないな』
おぼえてろ、弦一郎。
END
20100317