羽の話
ある日突然、目を覚ますと俺の背中には羽が生えていた。
鏡の前にたつと小さい羽が二枚背中から直接生えている、ひっぱってみた所ではがれる気配はない。それにどうやらこの羽は俺の神経と完璧に連動しているらしく暫くすると開いたり閉じたりできるようになった。
俺はいつの間に鳥類になったのだろうと落胆していたがそれにしてももう時間は無い。さらしで羽を押さえつけてシャツをきて学校へ向かう。とにかくまだ得体のしれぬ羽だ、あまり人にみられるのは不味いだろう。蓮二、そうだ、蓮二に相談しよう。あいつならば何か知っている、もしくはこの羽の事を調べるのに少しでも尽力してくれるに違いない。
「お前、天使だったのか?」
蓮二の一言は非科学的かつファンタジーだった。しかし目を輝かせる蓮二に俺はなんとも言えずにただおさえつけていた羽を部室で解放し蓮二の前でぱたぱたとはためかせるしかなかった。
「ふむ、作りものではない。ちゃんと根元から生えているな…」
興味深いと言う顔で羽をいじくりまわされると背中がむずがゆくて仕様がない。「あまり触るな…」と言うと蓮二はいじめっこのような顔で羽をいじくりまわす。やめんか、くすぐったい!などと騒いでいるとがちゃりと部室のドアが開いた。まずい、と羽をかくそうと上着を手にとるももう遅く、部室のドアの前には唖然とした幸村が目をまんまるにしてつったっていた。
「え、何それ、学園祭の衣装?」
「あ…いやこれは…」
俺がもぞもぞと上着を羽織りながら言い訳を考えている間に幸村は俺の背後に周り羽を両手でつかみあげた。メリッと音がして背中に激痛が走る。
「うあっ!!!!」
「せ!精市!!」
その激痛にくらくらとしてしゃがみ込むと幸村の手から羽は解放されてわきわきと指だけを動かす幸村の顔がみるみる青ざめていく。
「いま…痛かった?」
「う…」
「この羽、本物なの?」
幸村は信じられないと言いたいのかまだその生々しい感触を忘れられずにいるようだった。
俺は今までなんとなく生えていた羽の恐怖をそこでまじまじと理解させられた。俺は人間であって鳥でもない、しかし羽は俺の背中を食い破るように根元から生えている。これはいったいどういう事なのだろうか。
「…見られてしまってはしょうがない。弦一郎のこの羽は間違いなく本物だ」
「そ…そんな…」
幸村は急にしゃがみ込んでしまい、長い前髪に表情は隠れ確認できない。
「ぶっふふふふ、はははは」
「幸村!?」
「精市!?」
幸村がごろんと部室の床へ転がると腹を抱えて大笑いをする。真田にそんな羽があるなんて似合わなすぎるーーーーーっぷふうう、などと涙を流すほど笑う幸村の姿を見て俺と蓮二は顔を見合わせて一安心した。自分で言うのも悔しいものがあるが、俺のような人間にこのような小さい羽。似合わないと言うしかないだろう。
「あ、赤也ならっまだしもさああ」
「幸村!俺だってこのような事望んだ覚えはないのだ!!わ、笑うのをやめろ!!」
「だって、その顔で天使みたいとはいかないでしょうよお…ひひっも、ちょっとたんまたんま」
幸村がやっと落ち着いた頃に俺は羽をもう一度蓮二に見せるとやはりどうみても鳥の羽だという、少し灰色がかった羽はまだふわふわとしていて完璧とは言えないようだった。
とにかく今日は一日羽はしまっておけ、と言う蓮二の言う通り俺はまた上からさらしをかけてさっきよりゆるめに巻いた。
小さい羽は上着をきてしまえば隠し通せる、ほっと一息ついてその日は部活を滞り無くすませ帰宅した。
「真田ー!」
「ふくぶちょー!!!」
次の日ホームルームが終わって部活へ向かおうとする途中できんきんと高い声で呼び止められる。
「なんだ、丸井に赤也か。」
丸井と赤也は何故か背中に白い羽を背負ってくるくる回ってみせる。文化祭の衣装か何かだろうか、なるほどこの二人には羽が似合うと思いながら早くしないと部活に送れるぞ。と一括すると二人はニヤッと笑って大声で羽をひらひらさせて言うのだ。
「みてみてー、これ、可愛いだろぃ?」
「ふくぶちょーとおそろ」
「おい!!!!!!!!」
俺は慌てて二人の口を押さえていそいで部室へ向かう。
何故この二人が羽の事を知っているのか、そんなものはきっとあの男が面白半分に言いふらしたに違いない。
「幸村!!!!!!」
「あ、きたきた。ほら仁王も見せてもらうといいよ、はね。」
「お前!!!」
くるんくるんとつくりものの羽を背負いながら回る赤也と丸井、部室の椅子に腕組みと足をくみながらふんぞり返って座る幸村はおもちゃで遊ぶ子供のように無邪気な笑顔を振りまいていた。
この男にみつかってしまった時点でこうなる事はもう予想できていたはずだ。ため息を吐きながらも上着をぬいでジャージにいそいそと着替えようとした時はらりと羽をおさえつけていた布が地面に落ちる。
布がおちて押さえつけていた羽が広がる、そこで赤也や丸井、仁王や柳生、ジャッカルの歓声が部室内に響く。
しかし幸村だけは、目を見開いた。
「真田、それ…」
広げた羽はみるからに大きくそして何枚にも別れ成長していた。バサリッと広げるたびにする音は明らかに昨日までのそれとは違う。
面白半分に言いふらした幸村は息をのんでその羽の大きさに驚いていた。
「副部長すげええええ、ちょっとバカにしてたけどこんなかっこいい羽…ほしいな俺も…」
「すげえな、幸村くんからはちっこいって聞いたからどうやってバカにしてやろうかと思ってたのに」
丸井と赤也は羽の後ろに入ってあったかいだのもふもふだのと遊び回る。とにかく俺はまだ来てない蓮二をまつ事にした。
羽で遊ぶ二人を引きはがしてまた無理に羽をさらしでおさえつけようとするが、なにしろ昨日の大きさの比ではないから時間はかかるし、もうジャージの上着でどうにかなるものではなかった。
今朝まではこんな大きさではなかったのに。
「弦一郎」
「やっときたか、蓮二。」
この羽では練習など出来ないだろうと部室のなかにいるように幸村に指示された俺は手持ち無沙汰に部室の中を掃除していた。
そこに古そうな洋書を抱えてもってきた蓮二はいきなり俺の目の前にその本を広げてみせる、天使の種類、などと書かれたその本には神に支える天使の名が記されている。要点をつまみ蓮二が話してくれるのを聞くとどうやら旧約聖書や新約聖書において羽などを持たず普通の人と変わらない成人男性か若い男子青年の姿で現れるそうだ。
そして美術館にあるような彫刻でできた像の写真が一枚、羽が何枚も広がる姿は今まさに俺の背中に生えるそれと酷似している。
「冗談を抜きに、お前は実は、天使なのではないだろうか。」
「ま、まさかそんな事はありえんだろう!」
「ありえんとは言い切れんだろう。そしてこの写真とその羽はもう言い逃れができん」
「それは…」
しかし突然羽が現われて、そしてお前は天使だろうなどと言われようと俺には理解しがたい。そしてこの羽がなんの為に今更になって現われたのか、どうすれば消えるのかそれも見当がつかなかった。
鏡の前にたつと小さい羽が二枚背中から直接生えている、ひっぱってみた所ではがれる気配はない。それにどうやらこの羽は俺の神経と完璧に連動しているらしく暫くすると開いたり閉じたりできるようになった。
俺はいつの間に鳥類になったのだろうと落胆していたがそれにしてももう時間は無い。さらしで羽を押さえつけてシャツをきて学校へ向かう。とにかくまだ得体のしれぬ羽だ、あまり人にみられるのは不味いだろう。蓮二、そうだ、蓮二に相談しよう。あいつならば何か知っている、もしくはこの羽の事を調べるのに少しでも尽力してくれるに違いない。
「お前、天使だったのか?」
蓮二の一言は非科学的かつファンタジーだった。しかし目を輝かせる蓮二に俺はなんとも言えずにただおさえつけていた羽を部室で解放し蓮二の前でぱたぱたとはためかせるしかなかった。
「ふむ、作りものではない。ちゃんと根元から生えているな…」
興味深いと言う顔で羽をいじくりまわされると背中がむずがゆくて仕様がない。「あまり触るな…」と言うと蓮二はいじめっこのような顔で羽をいじくりまわす。やめんか、くすぐったい!などと騒いでいるとがちゃりと部室のドアが開いた。まずい、と羽をかくそうと上着を手にとるももう遅く、部室のドアの前には唖然とした幸村が目をまんまるにしてつったっていた。
「え、何それ、学園祭の衣装?」
「あ…いやこれは…」
俺がもぞもぞと上着を羽織りながら言い訳を考えている間に幸村は俺の背後に周り羽を両手でつかみあげた。メリッと音がして背中に激痛が走る。
「うあっ!!!!」
「せ!精市!!」
その激痛にくらくらとしてしゃがみ込むと幸村の手から羽は解放されてわきわきと指だけを動かす幸村の顔がみるみる青ざめていく。
「いま…痛かった?」
「う…」
「この羽、本物なの?」
幸村は信じられないと言いたいのかまだその生々しい感触を忘れられずにいるようだった。
俺は今までなんとなく生えていた羽の恐怖をそこでまじまじと理解させられた。俺は人間であって鳥でもない、しかし羽は俺の背中を食い破るように根元から生えている。これはいったいどういう事なのだろうか。
「…見られてしまってはしょうがない。弦一郎のこの羽は間違いなく本物だ」
「そ…そんな…」
幸村は急にしゃがみ込んでしまい、長い前髪に表情は隠れ確認できない。
「ぶっふふふふ、はははは」
「幸村!?」
「精市!?」
幸村がごろんと部室の床へ転がると腹を抱えて大笑いをする。真田にそんな羽があるなんて似合わなすぎるーーーーーっぷふうう、などと涙を流すほど笑う幸村の姿を見て俺と蓮二は顔を見合わせて一安心した。自分で言うのも悔しいものがあるが、俺のような人間にこのような小さい羽。似合わないと言うしかないだろう。
「あ、赤也ならっまだしもさああ」
「幸村!俺だってこのような事望んだ覚えはないのだ!!わ、笑うのをやめろ!!」
「だって、その顔で天使みたいとはいかないでしょうよお…ひひっも、ちょっとたんまたんま」
幸村がやっと落ち着いた頃に俺は羽をもう一度蓮二に見せるとやはりどうみても鳥の羽だという、少し灰色がかった羽はまだふわふわとしていて完璧とは言えないようだった。
とにかく今日は一日羽はしまっておけ、と言う蓮二の言う通り俺はまた上からさらしをかけてさっきよりゆるめに巻いた。
小さい羽は上着をきてしまえば隠し通せる、ほっと一息ついてその日は部活を滞り無くすませ帰宅した。
「真田ー!」
「ふくぶちょー!!!」
次の日ホームルームが終わって部活へ向かおうとする途中できんきんと高い声で呼び止められる。
「なんだ、丸井に赤也か。」
丸井と赤也は何故か背中に白い羽を背負ってくるくる回ってみせる。文化祭の衣装か何かだろうか、なるほどこの二人には羽が似合うと思いながら早くしないと部活に送れるぞ。と一括すると二人はニヤッと笑って大声で羽をひらひらさせて言うのだ。
「みてみてー、これ、可愛いだろぃ?」
「ふくぶちょーとおそろ」
「おい!!!!!!!!」
俺は慌てて二人の口を押さえていそいで部室へ向かう。
何故この二人が羽の事を知っているのか、そんなものはきっとあの男が面白半分に言いふらしたに違いない。
「幸村!!!!!!」
「あ、きたきた。ほら仁王も見せてもらうといいよ、はね。」
「お前!!!」
くるんくるんとつくりものの羽を背負いながら回る赤也と丸井、部室の椅子に腕組みと足をくみながらふんぞり返って座る幸村はおもちゃで遊ぶ子供のように無邪気な笑顔を振りまいていた。
この男にみつかってしまった時点でこうなる事はもう予想できていたはずだ。ため息を吐きながらも上着をぬいでジャージにいそいそと着替えようとした時はらりと羽をおさえつけていた布が地面に落ちる。
布がおちて押さえつけていた羽が広がる、そこで赤也や丸井、仁王や柳生、ジャッカルの歓声が部室内に響く。
しかし幸村だけは、目を見開いた。
「真田、それ…」
広げた羽はみるからに大きくそして何枚にも別れ成長していた。バサリッと広げるたびにする音は明らかに昨日までのそれとは違う。
面白半分に言いふらした幸村は息をのんでその羽の大きさに驚いていた。
「副部長すげええええ、ちょっとバカにしてたけどこんなかっこいい羽…ほしいな俺も…」
「すげえな、幸村くんからはちっこいって聞いたからどうやってバカにしてやろうかと思ってたのに」
丸井と赤也は羽の後ろに入ってあったかいだのもふもふだのと遊び回る。とにかく俺はまだ来てない蓮二をまつ事にした。
羽で遊ぶ二人を引きはがしてまた無理に羽をさらしでおさえつけようとするが、なにしろ昨日の大きさの比ではないから時間はかかるし、もうジャージの上着でどうにかなるものではなかった。
今朝まではこんな大きさではなかったのに。
「弦一郎」
「やっときたか、蓮二。」
この羽では練習など出来ないだろうと部室のなかにいるように幸村に指示された俺は手持ち無沙汰に部室の中を掃除していた。
そこに古そうな洋書を抱えてもってきた蓮二はいきなり俺の目の前にその本を広げてみせる、天使の種類、などと書かれたその本には神に支える天使の名が記されている。要点をつまみ蓮二が話してくれるのを聞くとどうやら旧約聖書や新約聖書において羽などを持たず普通の人と変わらない成人男性か若い男子青年の姿で現れるそうだ。
そして美術館にあるような彫刻でできた像の写真が一枚、羽が何枚も広がる姿は今まさに俺の背中に生えるそれと酷似している。
「冗談を抜きに、お前は実は、天使なのではないだろうか。」
「ま、まさかそんな事はありえんだろう!」
「ありえんとは言い切れんだろう。そしてこの写真とその羽はもう言い逃れができん」
「それは…」
しかし突然羽が現われて、そしてお前は天使だろうなどと言われようと俺には理解しがたい。そしてこの羽がなんの為に今更になって現われたのか、どうすれば消えるのかそれも見当がつかなかった。