小鳥の苛立ち
草むらを我が物顔で踏み荒らす人間の子供たち。しかしそれだけならこのあたりではよく見られる光景だ。
人間の大声と足音でうたた寝から強制的に起こされた。まだ我慢できた。
意識が覚醒しきる前にその人間の子供が、連れているフシギダネで攻撃を仕掛けてきた。反射的に必死で羽ばたいて、なんとか上空に退避した。このあたりで機嫌が下方に傾く。
なおもフシギダネは葉っぱカッターで攻撃しようとしてくる。当たらないけれど気分は良くない。
子供、おそらくフシギダネのトレーナーなんだろう、が何かフシギダネに呼びかける。そしてフシギダネがそれに応えるかのように一鳴きしたのをポッポは上から見ていた。
戦いを好まない穏やかな性格が多い仲間たちの中でも自分は変わり者の部類に入っているだろうと思うポッポは、一連の流れで非常に苛々していた。
どうしていきなり襲われなくちゃいけないんだ。しかも、自分よりも弱そうな草タイプに。
そんな好戦的なポッポだったから、返り討ちにしてしまおうという結論が出るまでに時間は必要無かった。
そうと決めたらまずポッポは絶え間なく下から繰り出される葉っぱカッターを避けながら地面すれすれまで下降する。そして地面に降り立つことなく、滑空するように地面近くを飛びながら、足で地表を蹴り出した。
細やかな砂の粒がフシギダネの顔に降りかかる。
フシギダネとそのトレーナーはそろって驚いたような声をあげた。目に砂が入ったのかフシギダネは慌てて蔓を伸ばしてポッポを捕らえようとするがポッポがその場から微動だにしないにも関わらずまったく当たらない。ポッポは思わず声を上げて笑ってしまった。トレーナーがこちらを睨む。馬鹿にされているように感じたのか。まあその通りなんだけれど。
ポッポは飛び上がって、翼を一際大きく羽ばたかせた。
フシギダネはトレーナーの指示なのか再び葉っぱカッターを飛ばしてくる。
ポッポはこれで終わらせるつもりだった。どちらかと言えば好戦的とはいえ、やはり相手を傷つけるのには抵抗があった。
羽ばたきは風を生み、ポッポはそれをさらに増幅させていく。
フシギダネの方へと一直線に向かった風は飛んでくる葉っぱをも巻き込んで押し返し、威力を保ったままフシギダネにぶつかった。
フシギダネは四肢に力を入れて踏ん張るが、風の勢いに負けて吹き飛ばされる。トレーナーは目をまん丸にしてフシギダネの名前を叫びながらフシギダネの吹き飛んだ方向に走っていった。ポッポはそれを見て、満足そうに一鳴きした。フシギダネに勝ったという満足ではない。苛立ちがいつの間にか消えていることへの満足だった。ちっぽけなだなあ。ポッポは思う。ちっぽけな自分にぴったりだとも。自嘲ではなく、ただ、そう思う。
そのポッポは自身の機嫌が急速に回復していくのを感じていた。