ルック・湊(ルク主)
『分かったはずだ、多くの人に必要とされている事を。・・・この痛み、それはあなたを信じていた人々の受けた痛みと思って欲しい・・・。』
シュウさん・・・。ごめんなさい・・・。
湊らが逃げたと片時も疑わずに、自分達が危険なのを厭わずに守ろうとしてくれたコウユウやマルロの顔やセリフが過る。
多分、いっぱいいっぱいになった自分達が抜け出す時に、目が覚めていて、聞いていたのだろうが、何もとがめなかったビクトール。
そしてゾンビが襲ってきている中、きっと必死になって探してくれていたであろうクラウスや皆、そして・・・リドリー。
『トゥーリバーの将軍として言わせてもらう。それ以上我らがリーダーを侮辱する事は許しませんぞ。』
僕が犯人かもしれないという可能性を薙ぎ払うようにキッパリと言ってくれたリドリー将軍・・・。あああ、ごめんなさい・・・ごめんなさいっ・・・。
僕はずっと・・・家族の為だけに生きてきた。
でも・・・気づけば周りには家族同様、大切な人々でいっぱいになっていた。
それらを捨てるなんて・・・なかった事にするなんて・・・ありえない事だったんだ。
そしてそんな自分が、ナナミを・・・笑顔にする事なんて到底出来るはずがなかった。
大切な人々を蔑にし、そしてそうすることで自分を蔑にしていた僕が、ナナミを幸せにする事なんて、出来るはずがなかった。
『真義と約束の為に生きてきた』
ゲオルグさん・・・僕は・・・。
僕は、僕の為に生きる。自分のしたいようにする。ルック、僕は僕の為に動くよ。
「ナナミ。ごめんね?僕は皆とともに戦いたい。僕は自分の為に、皆を笑顔にしたい。その為に僕に出来る事を出来るだけ、したい。」
「・・・うん。分かった。うん!それでこそ、湊よ。ごめんね、わたしの方こそ、本当にごめんね。」
「ナナミが謝る必要は微塵もないから。ね?もう謝らないで。」
「うん、じゃあ、湊も謝らないで。」
そう言って2人で顔を合わせ、ニッコリと笑い合った。
そしてまた、山の方に歩き出した。
「・・・遅いよ、子猿。」
「っルック!」
村の出口で、ルックと詩遠が立っていた。
「なんで・・・。」
「なんとなく、君はこっちに来るような気がして、ね?送っていくよ?ゾンビはもういないだろうけど、危ないしね?」
詩遠がニッコリと言った。
「詩遠さん・・・。」
「とっとと歩きなよ、子猿。」
「も、もう!その呼び方やめてよ!」
でも懐かしさに涙が出そうになった。まだ軍主というものに慣れておらず、自信どころか自己嫌悪しかなかった頃を思い出す。
口調とは裏腹に、まれにみるルックの優しそうな笑みに、湊も笑い返した。
クロムの村に戻ると、村長の家でビクトールが待っていた。
「よぉ、遅かったな湊。もう何日か遅かったら、置いていくところだったぞ。しかし間に合って良かった。」
「「ごめんなさ・・・」」
「疲れてんだろ、湊!そうだろ!今日はゆっくり休め!!な!そうしろって!!!ナナミもゆっくり眠れよ!!明日からは戦いだからな!!はっはっはっはっ!!」
うなだれ、謝ろうとした湊とナナミの肩を持って、ビクトールがそう言って豪快に笑った。
結局、その後も、風呂だ、夕食だ、酒だと言って、ビクトールには何も言う暇がなかった。そして詩遠とルックも、湊とナナミが2人でゆっくり出来るようにか、どこかに姿を消していた。
夜、疲れきっていたナナミが寝たのを見届けると、湊は部屋を出た。歩いていると、廊下のかたすみにビクトールがいた。
「よう、湊。」
「ビクトールさん・・・。」
「リドリーの事は気にすんな。やつも軍人で、戦士だった。戦いの中で、一人の戦士が死ぬ。よく、あることだ。リドリーの事に涙するなら、今までの戦いで死んでいった全ての兵士に涙する必要がある。だから、今は先を、未来をよぉっく見据えて。涙を流すなら、後にしておけ。」
「ビクトールさん。」
「それから。お前が逃げ出した事は、詩遠とルック以外だと、俺とクラウスとシュウとフリック、それからアップルしか知らない。ナナミの書きおきは俺が見つけたんでな。シュウには俺から知らせてお前を説得してもらったんだ。それ以外、他のヤツには何も言っていない。だからお前さんも何も言うな。お前さんは同盟軍のリーダーなんだからな。」
すると湊がギュウ、とビクトールに抱きついてきた。
「ごめんなさい。ほんとに色々、ごめんなさい。でも。」
ビクトールを離し、湊は言った。その目が本気を物語っていた。
「僕、絶対、この戦い、勝ちます。」
「そう、か。」
ビクトールはポン、と手を湊の頭に置いて撫でてから、歩き出した。
湊・・・お前を巻きこんで、それこそ悪いと思っている・・・。だが・・・せめてお前がお前の思うまま歩んで、そして勝利をつかみとれるよう・・・。
「おう。絶対、勝とう、な。」
そして手をあげて階段を降りていった。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ