ルック・湊(ルク主)
喚起3
翌日朝、フリックはつきまとってくるニナから逃げながら、市長をさがす手だてなどを湊に話した。
「ルック、大丈夫ー?やっぱなんかしんどそうだよ?」
「いや、ちょっと・・・眠いだけ。」
「え。昨日あんなに早く寝たのに?」
湊がキョトン、とルックを見る。
「うるさいよ、子猿の分際で。そうゆう時もあるんだよ。ほら、僕の事はいいから、任務。」
「あ、ああ、うん。」
とりあえず色々手だてを探してはみたが、結局なにも得るはなかった。
学院の職員であるエミリアさんという女性が言うには、市長が隠れる羽目になった原因でもある、ハイランドの指揮者は相当酷い手を使ったそうであるが、その割に、なにも一切こちらに手出しはしてこないんだそうである。
「いったいどんな指揮者なんだろうね。頭、いいのかなー。」
湊がぼんやりとそう言っていた。
「別に、頭が良ければいいってものじゃないだろ。」
「だって僕は頭、あまり良くないもん。」
「・・・それでもうまくまとめているじゃないか。」
ルックが言った言葉に、湊は目を見張る。
「・・・えへへ・・・。そ、そうかな。だったら、いいな。ルック。ありがとう。」
次の瞬間には湊は破顔で嬉しそうに言った。
「・・・いや。」
そんな湊に対して、ルックはあらぬ方を見て生返事をしていた。
何も得るものはないまま、食事も終え、皆で部屋にもどろうとしているときにニナにばったり会った。
しばらくフリックの事でナナミを話をしていたニナは、じゃあね、と去る時に思い出したように言った。
「あ、そうだナナミちゃん。あんまり夜は騒がないほうがいいわよ。まくら投げなんかしてると、夜中に“さんぽするオバケ”に連れてかれるわよ。」
「お、お、おばけえぇぇぇ!?な、何よそれっ、こ、怖くなんかないもんっ。そんなのいる訳ないもんっ。ね、湊っ。」
ナナミが面白いほど焦ったように湊に同意を求めてきた。
「どうかなー、今晩あたり・・・」
「そっそんな訳ないでしょっ、もうっ、湊のバカっ。湊だって怖がりのくせにっ。い、行こ?アイリちゃんっ。」
更に動揺しつつ、ナナミは呆れたようなアイリを連れて、部屋に入って行った。
「フッチは怖くないの?」
「僕は平気です。湊さんこそ、大丈夫なんですか?」
聞いてきた湊に対して、フッチはニッコリと返した。
「僕?うんっ、そんなの、怖いわけないじゃんっ。そんじゃあ、また、明日ね、おやすみ、フッチ。」
「はい、おやすみなさい、湊さん、ルック。」
フッチも自分の部屋に入っていく。
「珍しいね、君がナナミに対してあんなからかうような冗談言うなんてさ。」
湊とルックも部屋に入っていきながら、ルックがそう言った。
「ん?ああ、うん。ナナミはねー、いっつもお姉ちゃんだからって言って、僕を守ろうとなんでも一生懸命だからね、こういった些細な事で、たまには誰かを頼ったり子供みたいになったらいいと思うんだ。」
湊はニッコリと言った。
「ふーん・・・。じゃあ、僕は眠いから、もう寝るよ。」
「ああ、うん。おやすみ、ルック。」
「・・・おやすみ。」
ルックは自分側のサイドテーブルのランプを消し、また壁を向いて横になった。
明るいと眠りにくいだろう、と湊も自分側のランプを消しベッドに入る。
そうして小一時間立つか立たないかと言ったところで、ようやくウトウトとしかけたルックは何かに起こされた。
「・・・?み、なと・・・?何・・・?」
眠っている自分の肩らへんの衣をどうやらギュッと持っているようである。
「ご、ごめんなさい、せっかく寝てたのに起こしちゃって・・・。」
「・・・別にかまわないけど・・・何・・・?どうしたのさ。」
横になったまま振り向けば、俯いた湊がいた。ルックは身体を起こして湊の方に向く。
「・・・・・・・」
「え?何?聞こえない。」
「ぅ・・・そ、その・・・。あの、さ?こ、今夜だけでいいからさ、い、一緒に寝てもらえないか、な・・・?」
ルックは起してる最中の身体を固まらせた。
「・・・は・・・?」
「いや、あの、ほら、ちょ、ちょっと肌寒いじゃん?」
「・・・普段から露出の高い服を着てるヤツの言うセリフじゃないね。・・・ぷ・・・。」
呆れたように言っていたルックだが、しまいには噴き出し始めた。
「ちょ、な、なんだよっ。」
「く・・・。怖がり軍主。」
「ちっ、違うわっ。」
「あ、そ。なら、一人で寝れば?」
「すいませんでしたあっ。」
「・・・まったく・・・。はあ・・・。・・・いいよ。その代わり、蹴飛ばしたりしないでよ。」
「ほんと?わあ、やっぱルックって優しいっ。」
「は?なんだよ、それ・・・。」
「えへへ。じゃあ、おじゃましまーす。大丈夫、僕、これでもけっこう寝ぞう、いいんだよっ。」
そう言うと、湊は嬉しそうにベッドの中に入ってきた。
もともとセミダブルくらいはありそうなベッドではあるが、それでもやはり2人だと狭い。
だが嬉しそうに横になる湊を見ると、何も言えなくなった。
とりあえず、反対向いて、寝よう・・・そう思ってまた壁側に身体を向ける
そんなルックの背後で、湊がつぶやくように言った。
「ルックは、優しい、よ。ほんと、いつも、ありがとう。ルック、大好きだよ・・・。」
もともと眠かったのであろう、そんな事を言うと、湊は静かになり、しばらくすると小さな寝息が聞こえてきた。
ルックはといえば、壁を見ながら顔を真っ赤にしていた。
「くそっ。色んな意味で寝れるかっ。」
こうしてルックは2日目の夜も眠れぬ勢いで過ごした。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ