ルック・湊(ルク主)
テレーズが当時の事を語る。
王国軍がグリンヒルを攻める予定だと聞いて、すべての市民が戦いの為の準備に追われていた。
そんな折に、王国軍に捕らえられていたミューズの兵士たちが解放されてグリンヒルにやってきた。
最初は誰もが喜んだ。だが。
武器や鎧なども返してくれており、疑う者もいたが、そのまま兵士達は受け入れられた。なによりも、それにより兵力が倍以上になったのである。絶望感を持っていた市民達にとって、ほんとうに心強いことであった、はずだった。
そうしてとうとう王国軍がグリンヒルを包囲した。だが、包囲するだけで、一向に攻めてこない。
こちらは立てこもる事によってもともと豊富ではなかった食料などが、逆に兵士達が増えた分、さらに厳しい事になってしまった。
それは市民と兵士の反目へとつながっていく。“グリンヒルの為の食料”“戦いの為の食料”・・・
挙句の果てに、兵士達は食料庫を力づくで占領したのをきっかけに、市内で内乱がおこってしまった。
そうして結局グリンヒルは、戦わずして王国軍に落ちたのであった。
「ともに戦う仲間だった同士が・・・わずかな食料の為に殺しあいを・・・」
「兵糧攻め、か・・・。」
ルックがつぶやいた。
「こちらに残ったのは、不信感・・・。・・・それに・・・私は・・・・私は市長代行として、それを防ぐ事が出来なかった・・・。ごめんなさい・・・湊さん。私に・・・・私に力はありません・・・どうか・・・どうかお帰り下さい・・・。」
帰り道、ナナミがぽつり、と言った。
「せっかくテレーズさんまで見つけたのに・・・だめだったね。」
「ああ、むだだったみたいだな。湊、明日にはここを出ようぜ。」
フリックもそう言った。
「王国軍にバレたら終わりだからな。」
「テレーズさん・・・」
ルックとフッチも呟いた。
湊はずっと黙ったままであった。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ