ルック・湊(ルク主)
その後ササライは後ろを向いて、どうやら兵士達にやるか聞いたようだ。兵士たちは動揺している様子がブドウ畑からも分かった。多分もしヒューゴが本当に炎の英雄だとしたらとうてい敵う訳ない、と思っているのだろう。
「仕方ないな。じゃあ、わたしが相手をしよう。」
「えっ!で、でもササライ様・・・」
「心配しなくていいよ。わたしが、あんな子供に負けると思うのかい。・・・ディオス、君はあいつが本当に炎の英雄だと思っているのかい。」
「で、ですが・・・。」
「大丈夫だ。」
そしてササライはヒューゴに近づいた。
「いつでもいいですよ。小さな炎の英雄殿。」
「っちっ、何言ってるんだい!!そっちだって似たようなものだろ!!」
「こう見えても、わたしは30年以上生きてますからね。」
「長く生きてるからって、それが、どうしたって言うんだ!!」
ブドウ畑では湊があらら、と呟く。
「ヒューゴくんも背、小さいの気にしてるんだー。怒っちゃった。で、長く生きてるからって、とか言っちゃったー。」
「だねぇ。炎の英雄ならもっと長生きしてるはずだからね?まあこれでも、ササライは真紋持ち決定だね。」
「はい。機会あったら喋ってみたいなー。ふふ、ルックみたい、髪もおかっぱのままだし、ほんと昔のルックみたい。」
「だめだよ、湊?たらしこんじゃ?」
「え?たらす??」
「ふふ。あ、一騎打ち、始まったよ?」
ササライとヒューゴ。ヒューゴはそれなりに全力で戦っているみたいだったがササライの方はどこか力を抜いた感じであった。そしてあまりにも簡単に負けを認めた。
「おっと、危ない危ない。これ以上やると、ディオスの心配した通りになるかもしれないね。」
そう言ってニッコリとして戦いをやめる。ディオスが、“では彼はまさか本物の・・・?”と言うと、首を傾げた。
「それはどうかな。だいたい、本当に炎の英雄ならわたしより年上のはずだからね。先ほど彼は、わたしより長く生きてないと宣言したようなものだ。」
どうやらやはり分かっていてお茶を濁したようである。ヒューゴ達はグ、と喉を詰まらせたような顔つきになった。
「わあ、やっぱりササライって食えない!ルックとは違った感じでアレな感じだー!」
湊が楽しげに言った。
その時ハルモニアの兵士の1人がササライとディオスに、カラヤの援軍がここに近づいてきていると報告してきた。
「何!これは・・・退却ですね。それが良いと思います。」
「そうだね、そうしよう。君の勝ちだよ、炎の英雄くん。出来たら、君の名前を聞きたいものだね。」
ササライはいっそ優しげとでも言ってもいい表情でヒューゴに聞いてきた。
「・・・カラヤクランのヒューゴだ。」
「ヒューゴだね、覚えておくよ。ディオス。もどるよ。」
そう言ってササライは歩き出したが、ブドウ畑の湊達の方向を少しチラリ、と見た。だが首を傾げた後でディオスと共にハルモニア兵を引き連れ帰って行った。
ヒューゴはしばらくしてからドサリ、と腰がぬけたかのように座り込んだ。
「ふぅぅぅぅ・・・心臓が飛び出るかと思ったよ・・・。」
そこで湊と詩遠もヒューゴのもとに行った。
「お疲れ様ーヒューゴくん!カッコ良かったよー!!」
湊がニッコリとしながら座りこんでいるヒューゴに飛びついた。いきなり湊に抱きつかれ、ヒューゴは顔を真っ赤にする。
「うわ、え?え?」
「ほらほら、湊。やめなさい。ヒューゴが困ってるよ?」
詩遠がニッコリと、まるで猫を持つかのように湊の首根っこの服をつかんで引き離す。
「あ、そうか、ごめんね!ヒューゴくん。つい。」
「え、あ、いや!べ、別に俺は困ってなんか・・・。」
赤くなってしどろもどろになるヒューゴを、アップルとシーザーは生ぬるい目で見ていた。
その後無事ルシア率いるカラヤの本隊も到着した。ジョー軍曹が楽しげに言う。
「よおし!!ハルモニアの奴らは追い返したし、これはお祝いだな!お祝い!!」
それを聞いた湊が楽しげに詩遠に言った。
「なんかビクトールさんを思い出しました!彼も何かあるとお祝いだーって言って飲んでた。もし仮に僕らの時みたく宿星が生まれるなら、ぜったいあひ・・・軍曹さんはビクトールさんの星、天孤星ですよー。」
そんな風に楽しげに言う湊を、詩遠は優しい眼差しで見る。
その後やはり宴会が始まった。
ジョー軍曹はそれは楽しげに酒を飲んでいる。湊はそんなジョー軍曹にどさくさにまぎれてくっつき、モフモフと感触を楽しんでいるようであった。そんな光景を同じく酒を楽しみつつ見ていた詩遠は、ヒューゴとこの村の長が向こう側に消えるのに気付いた。
気になったのでそっと後を付ける。
「サナさん、話ってなんですか?なんだか向こうで軍曹が暴れちゃって・・・。」
「ふふふ、この地の人は皆そうね。」
サナと呼ばれた村の長は優しげに笑う。そしてヒューゴに炎の英雄に会いたいか、そして会ってどうしたいか、と尋ねた。
「ぼくは、炎の英雄に会ってこのグラスランドを守れるような強い英雄になる方法を教えてもらおうと思っています。」
するとサナはその答えを待っていた、ヒューゴに英雄がいる場所を教えると言った。
詩遠はその様子を興味深く聞いていると、そこにるルシア達がやって来る。そしてジョー軍曹と一緒に湊まで混じっていた。
あまりに自然にそこに溶け込んでいる様子を詩遠は苦笑して眺める。
そしてヒューゴ達は炎の英雄に会いに行く事になった。ジョー軍曹は“当然俺も連れて行くだろう?”と言っている。
湊は懸命にも黙ったままであったが。
「さあー、そうと決まれば前祝いだーーー、戻って、騒ぐぞヒューゴ!湊!」
そしてさっさと宴会をしていた場所に軍曹は戻っていく。
「ま、またかい、軍曹・・・・・・。」
「ふふ!いいじゃん!ヒューゴくん!楽しいの、僕も好きー!」
お酒が得意じゃない湊は見た目を利用して未成年を装い(ルシアは知っているが)飲んでいないはずであるが、雰囲気や匂いに酔っているのか、いつも以上に高いテンションでヒューゴの肩に手を回して軍曹が歩いて行ったほうに連れ歩き出す。
ヒューゴはまた真っ赤になりつつされるがままであった。ルシアはなんとも微妙な表情を浮かべてその様子を見ていた。
詩遠は楽しげにため息をついてから、自分も宴会の場所に戻って行く。
“炎の英雄、か・・・”と呟きながら。
一方その頃。
「湊はいないし、真の紋章はこの手に入らないし、湊はいないし、中々炎の英雄の場所もつかめないし、湊はいないし・・・」
「・・・おい。いい加減にしてくれ。女。この仮面をどうにかしろ。」
「黙りなさい。ルック様は色々大変なんです。ああ・・・おかわいそうなルック様、湊様はすぐに戻ってこられますよ。」
「て、女。チビの事はどうでもいいんだよ。今は真の・・・」
「黙りなさいといいましたよ、人外。紋章は・・・・・・あ。ルック様。色々動きを見せている者たちが同じ場所に集まりつつあります。もしかしたら・・・。参りましょうね?」
「・・・うん。」
ルックは素直にコクリとうなづいた。セラはニッコリと笑う。
ユーバーは生ぬるい目でそんなルックを見ていた。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ