ルック・湊(ルク主)
策略1
シュウから、ラタドが占領されたらしい、と告げられた。
シュウ曰く、王国軍第三軍のキバとその息子クラウスの仕業だろう、とのこと。
キバとクラウスは、以前トゥーリバーでの王国軍との戦いでチラリと会ってはいる。敵ながらなかなかの腕前のキバと、頭の良さげなクラウス。2人ともまともそうなのに、なぜあんな狂皇子、ルカなどについているのだろうと湊は首をかしげた記憶がある。
とりあえず湊達は直接ラタドへ出向き、視察した。その際にクラウスに見つかってしまう。
「湊どの。トゥーリバーでは破れましたが、今度は全力で戦わせてもらいます。」
クラウスは静かにそう言った。
そして湊らを捉まえるでもなく、去って行く。やはり敵ながら、憎めないなぁと思いつつ、湊らも本拠地へと戻っていった。
最終的に、戦いはシュウの策により結局勝利を収めた。
一度はラタド近くへ攻めていた戦い中にコボルト部隊がなぜか難癖をつけて撤退してしまい、本陣も仕方なく撤退した。
そのコボルト部隊は隊長であるリドリーを含め沈黙を守っている。まわりではリドリーに対して反感をも持ち始めていたが、シュウはいたって冷静であった。
翌日、こちら側に侵攻してきた王国軍に対し、シュウは軍を二分し一方を伏兵として仕掛け左右から包囲させた。
王国軍のクラウスはこの策を見破り、キバに本体だけを狙うよう命令。伏兵に目もくれず突進してくる王国軍に、ビクトールやフリックは必死になって湊を守ろうとするが、さすがに伏せきれない、と思った時、撤退後沈黙していたコボルト部隊が王国軍の背後に出現した。
どうやらシュウの本当の策はこちらだったようだ。味方をもあざむき、コボルト部隊隊長のリドリーにわざと離反させていたのはこの策の為の布石だったようである。
結局裏の裏をかかれ、キバ達にはもはや策もなく、同盟軍はこの戦いに勝利したという訳であった。ただ、王国軍は離れたところに第四軍であるラウドもいたはずである。だが、この軍はずっと様子をうかがっており最終的には何もせずに撤退した。
勝利を収め、湊の隊も本拠地へ戻ってきた。
キバとクラウスは捕らえられており、湊に引き合わされた。
すぐにでも首を落としてもらおう、と憤るキバに対して、シュウは湊を見た。
「キバ将軍は有能な将。また、その息子クラウスの才も確かなものです。湊どの。彼らの縄をとき、我らの仲間に引き入れる事をおすすめします。」
「シュウさん・・・その案は大賛成だよ?だけれども、今回の戦いの策、勝つためとはいえ、仲間をもあざむいたの、僕、好きじゃないからねっ?」
湊はニッコリしつつも、ボソリとシュウに言った。それからキバらに近づいていく。
背後ではなぜかシュウが青ざめつつよろよろとよろけておりアップル達に驚かれつつも支えられていた。そんな様子をルックは、ケッとばかりに見ていた。
「キバ将軍・・・色々思うところはあると思いますが、どうぞ我らに力を貸して下さいませんか・・・?」
「お断りする。我らは、ハイランド皇王アガレス・ブライト様に忠誠の誓いを立てた身。敵軍に寝返るなど、武人の名が泣くわ。」
「わたしも父上と同じ気持ちです。我らが母国、ハイランドに刃を向けるなど、考えられません。」
まともな武人として、当然といえば当然の事を親子は言った。湊はため息をつく。
その時、一兵士が書状を持ってきた。どうやらハイランド軍から届いた様子。
「なんだ?読め。」
とりあえず立ち直ったシュウが言った。
「は、はい。『ハイランド王国皇王ルカ・ブライト様より貴軍の戦いぶりに、大いなる賞賛を送る。次の戦いが楽しみである。ハイランド王国第四軍レオン・シルバーバーグ』・・・以上です。」
「・・・・。クラウス、今の伝令をどのように読む?」
シーンとした中、シュウがクラウスに聞いた。湊は妙に押し黙っている。
「くっ・・・・・・・・・・・。ア、アガレス・ブライト様は・・・ルカ様の手によって・・・暗殺されました・・・。」
「な、なんと!クラウス!滅多なことを・・・」
辛そうに、くやしそうに言うクラウスに、キバが目を見開いた。
「ジ・・・ジル様の婚約・・・。アガレス様の死・・・。第四軍の動き・・・。それしか・・・考えられません・・・。」
「・・・・・・・・。」
キバは唖然とした様子でうなだれた。
「ルカ・ブライトの望みは、王国の勝利ではない。都市同盟全市民、すべての命を奪う事だ。それは、都市同盟だけではなく、ハイランドそのものも喰いつくす、恐るべき欲望だ。キバ将軍。ルカ・ブライトを倒す為、あなたの力を借りたい。」
シュウがキバに話しかける。
「・・・・・・・・。」
「父上。」
「・・・・・・・・承知した。湊様。主を変えるは、武人の恥なれど、あえて汚名をきましょう。あなたとともに戦わせて下さい。」
目を瞑り、キバが言った。続けてクラウスも湊に言う。
「湊様。わたしはあなたに敵わなかったようです。所詮はわたし一人の才で、あなたと、あなたのもとに集まった仲間に敵うはずがなかった。今日からはわたしの才もあなたの為に使わせて下さい。」
「・・・ありがとう、ございます・・・。これから、ともに、がんばりましょう。」
湊はなぜか先ほどの書状を聞いてから少しだけ様子がおかしい、とルックは思っていた。
とりあえず一旦部屋に戻ろうとしている湊に声をかける。
「どうかしたのか?」
「あ・・・ルック・・・。うん・・・。いや、別にどうもしないんだけどねー。」
ニヘラ、と笑ってみせる湊に、ルックは鼻で笑った。
「嘘が下手なんだからついても無駄だよ。」
そう言うと、気づけばもう湊の部屋の中だった。
「お茶を淹れておくから、君はその鎧を先に脱げばいいよ。」
「わーやっぱ便利だねぇ、ルックの転移っ。あー鎧ね、ごめん、一人で脱ぎ着、出来ないんだ、僕。」
「・・・いつもはどうしてるのさ・・・?」
「ああ、たいていはシュウさんに手伝ってもらってるよ?なんで?」
シュウ、殺す・・・。
ルックはとりあえず黙って湊の籠手に手をかけた。
「ありがとう、ルック。」
「・・・別に・・・。これからもやってあげるから、出陣の前後には僕を呼べ。」
「・・・うん。・・・ありがとう。」
お礼を言いつつも、残念ながら今は湊が俯いていたせいで、顔が見えなかった為、いつもの頬を赤くしながらの笑顔が見れなかった。
「・・・あのね、ルック。」
各部位を脱がせてもらいながら、湊が呟くように言った。ルックは黙ったまま促す。
「アガレスって王様の暗殺・・・もしかしたら・・・ジョウイがしたのかもしれないんだ・・・。」
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ