10年越しのプロポーズ
「いいわよ」
雲雀君が大きくなったらね。と、いつも絶やさぬ母の笑みをふんわりと向ける。
それに対し雲雀は口をへの字に曲げた。
子供扱いは普段なら咬み殺すに値するが、彼女からの扱いは嫌ではない。が、今回ばかりはそれを嫌う。
「僕は本気だよ」
「あら冗談だなんて思ってないわよ。こんなおばさんに嬉しいわ~って思ってるわ」
「奈々は綺麗だ」
「うふふ、ありがとう。でも残念」
私には他に特別な人がいるの。
そう言って彼女は幸せそうに笑う。
雲雀はますます口をへの字に曲げる。
「…先のことなんて分からない」
「そうね、先のことは分からないわね。もしかしたら何かの原因で別れてる可能性だってあるものね。それじゃあもし10年経っても雲雀君の想いが変わらなかったらもう一度同じことを言ってくれるかしら」
リボーンは言う。
「妥協したらどうだ」
ちょうどすぐ傍に同じ顔があるじゃないか。奈々の言ったことは地球一周分くらい遠回しなお断りだろう。
しかし雲雀は言う。
「僕は妥協しないよ」
確かに顔は似てる。でも全然駄目。あんなちんちくりんじゃ駄目。
「それに確約も取った。まあ見てなよ赤ん坊」
10年後が楽しみだ。
「結婚しようか」
そう言ったら、口に運びかけたカップが止まって。続いてのろのろと顔がこちらを向く。
「…は?」
「結婚しようかって言った」
今度は口をあんぐり開けて、ついにはカップに注がれていたアールグレイを溢した。
一人わあわあと慌てふためいている。のを頬杖ついて見ている。見ていてここまで飽きない人間は他にいない。
10年想いは貫いた。そろそろ頃合いだろう。
「嬉しくないと言えば嘘になりますけど…」
何とか落ち着いたようで、新しい飲み物を注文してから俯き加減に向き直る。
初めてプロポーズというものをしてから、雲雀は時間が空くたびに通った。彼女にとっては息子が一人増えた感覚だったのだろうが。
自分と彼女のやりとりを見るたびにはらはらひやひやしていたのが度々目に入っていた。本物の息子。あの頃からすでに飽きることがなかったように思う。
「あのでも…俺男ですよ?」
「だから?世間体は関係ない」
赤ん坊にとったら冗談のつもりだっただろう。勿論雲雀だってそう受け取っていた。
いたはずなのに。
通いつめて築いてきた関係は今も継続中だ。多分どちらかが死ぬまで切れることはないだろう。
それでいいと思う。自分は受け入れられたのだ。
ああ本当に。
「それで返事は?沢田綱吉」
先のことは分かりゃしない。
作品名:10年越しのプロポーズ 作家名:七篠由良