目覚めた時に…
何時ものぼろアパートでポツリと呟かれた帝人の一言は誰にも届くことは無くただ虚しく何処かに消えて行ってしまった。
風邪をひいて熱があるせいなのか、それとも人恋しさからなのかは分からないが何故だか視界が滲んできた。
(……頭が…痛い……。あぁ……。気持ちが悪い……。お腹も痛くなってきた……。)
どうしょうもない不満や苛立ちがずっと前から帝人の心の中を渦巻いていた。
学校では何時も通り振る舞っていたつもりだがやはり正臣や杏里には熱が有ることがバレ、早退することを進められたが、これからの進路を考えると早々と早退する訳には行かなかった。
そして、学活から這うように帰ってきてからはずっと布団に潜り込み、寝たり起きたりを繰り返していた。
夕食の時間もとっくに過ぎていたが作るのもダルく食欲も無かったため、また今の状態へと至る。
とうとう帝人の熱もピークへと達したためか、体が震え出した。
「……寒い……です……。ぃ……ざや……さん……。」
頭がうまく回らず、自分が何を言っているかさえももう、分からない。
涙で視界が歪んでいて周りが良く分からなかったが、頭の方へと手を伸ばし僅な感覚で自分の手に馴染んだ感覚の携帯を手探りで探せば、思いの外簡単に携帯を見つけられ、彼
へと電話をする。
(あぁ……。やっと…、今日は直ぐに電話出来た………のに…………)
「臨也さん………」
そこで帝人の意識は無くなった。
目が覚めた時、目の前には見知った真っ黒な服に包まれた彼がいた。
抱き締められていると気付いた時にはもう帝人の顔は綺麗な紅色に染まっていた。
彼に気付かれる前に何とかして熱を冷まそうと、あうあう言っていると頭上から「おはよう」とまだ眠気が混じった声が飛んできた。
嬉しいような恥ずかしいような、なんとも言えない気持ちで心がくすぐったくなる。
「おはよう…ございます……臨也さん。
あの……。何時から居たんですか…?」
「んー…。帝人君から電話貰ってから直ぐ飛んで来たからあんまり正確な時間は覚えてないや。」
「と、とりあえず、僕に余り近付かないでください。風邪…移っちゃいますから。」
「えー。帝人君ってば冷たいなぁ。君が俺を離さなかったのに。」
「えっ?」
「昨日、俺が家に着いたときはに、『臨也さん…ずっと側に居てください……』とか言って俺を抱き締めて離さなかったのに。」
「……あの、夢は寝てから見てください。現実の世界にまで持ってこないでください。」
「いやいや。ホントだって。あ、録音してあるの聴く?」
そう言いながら臨也はポケットから携帯を取りだし再生し出した。
「どう?本当でしょ。」
「………は、い…。でも……あの……もう平気ですから離れて下さいっ!」
帝人は再生された自分の言葉を聞き、臨也との距離の近さに更に恥ずかしくなってうつ向きながら言った。
「んー…。でも、なんか帝人君顔赤いよ?」
「誰のせいだと思ってるんだっ!!」と内心、思いっきりツッコミを入れたと同時に、臨也の手により目を無理矢理合わされた。
「っっ!?」
こつんっとおでこをいきなり合わせられ最早帝人の脳みそはショートした。
「っ…い、ざやさんっ!!か、顔が近いですっ………本当にもう、離れて下さいっっ!!こ、これ以上近くなったら…僕の心臓が持たないですからっっ!!」
帝人は言った後で後悔した。
目の前の恋人は次第に口許は完全に緩み、にやにやとしている。
「いやー。帝人君は相変わらず可愛いね。」
「っ…う、五月蝿いですっ!だいたい、男の僕に可愛い要素なんて何処にも有りませんからっ!!」
臨也はそんな帝人の反論をうんうんと言いながら聞き流し、帝人をそっと抱き締めた。
「帝人君。今日は休日だからさ、もう少しこのまま…ゆっくりしてようか……。」
帝人は臨也の優しい声を聴きながらそのまま「はい…」と、返事をした。
彼が抱き締めてくれていることが自分にとって、こんなにも安心し、心地好いものなのだということを帝人は今回初めて実感した。
最後に聴いた彼の“おやすみ”の声が目覚めた時に“おはよう”に変わっているだろうことを楽しみに帝人はまた静かに眠りに着いた。