えすぴー 手紙
・・・・・おまえはツレない・・・・・・
机の引き出しから出てきた手紙は、結局、読まないままに毎日、持ち歩いていた。中身は、なんとなく判るので開けずにある。開いたら、たぶん五月蝿い。あの人からの言葉は胸に刺さり、ずーっとエンドレスで流れ続けるだろうからだ。そして開けない罪悪感なのか、生霊からの呪いなのか、明け方におかしな声に悩まされる。
「中身なんて今更でしょう。これは戒めにさせてもらいます。」
そう言い返すと笑い声に変わる。甘いような本当におかしいと笑っているような声だ。これは妄想なのか、まだ死刑になっていない誰かの生霊の仕業なのか。どちらとも判断はつきかねる。危険なものではないから、シンクロしないので、夢ということにしておこうと思っている。
お互いに、あの地下で言いたいことはぶつけたから、何も言いたいことなんてないのだ。
止めてくれ、いや、止めるなら殺す、
おまえも、こちらにくればよかったんだ
俺たちは似たような過去がある
おまえは、こちらに陥てくるな
おまえを殺したら、気が楽になるんだろうな
やめてください
あんた、おかしいだろ?
過去なんて変えられない
どうして、そちらへ行くんですか
殺しません、逮捕します
銃弾の雨の中で雄弁に態度で語り合った。どこかで道が違えてしまったのだと気付いていたが、正す方法はみつけられず、対立は決定的なものになった。だというのに、あの人は俺を庇って微笑んだ。二律背反な考えを内包していたから、そんなことができたのだ。
そして、手紙だ。何が書かれているのか、知りたいとは思わない。開けないまま、あの生霊の抗議を耳にして眠るのは、そんなに悪いことじゃないと思えるから。
実物と会うことは、この先ないだろう。そのうち、死刑になるだろう。実際の声も姿も会わないままに、この世から消えて逝く。だが、この繰言の声は聞いていて笑えるから好きだ。信頼する上司だった頃のあの人のようだから、ついつい聞き惚れてしまう。
あの手紙を開けなければ、今度は本物の死霊が抗議に来て居座るのかもしれない。それはそれで楽しそうだから待っている。