なにもない僕等
・何も無い僕ら・
「好きだって言ったらどうします?」
唐突に言われて持っていたコーラの缶を落としそうになった。
「あのさ、むくろっ」
そういう事は外では・・・
言いかけて
腕を掴まれた。
「どうします?」
気付かれないようにコッソリ息を吐く。
「知ってる」
俺の答えに少しだけムッとした顔をする。
骸の欲しかった答えじゃないのくらいわかってる。
じゃあ・・・
「骸は何が欲しいの?」
「え?」
「骸が俺の事を好きなのは知ってるよ。いつも言われてるからね」
俺はそっと骸の手をはずすと立ち上がった。
「なあ。帰ろう?」
帰り道。
困惑した表情の骸と無言でその手を引く俺。
なんだか不思議な構図。
いつもとは逆だ。
骸が借りてるアパートについて彼が鍵を開ける間も無言。
ただ。
いろいろ考えてた。
むくろは何が欲しいのかなーって。
「どうぞ」
先に入って上がったところで振り返る。
一段高いこの位置だと目線が近い。
「いつもみたいにあしらってほしかった?
それとも別の答え?」
「つなよ…」
「目、逸らすなよ」
俯こうとした頬に触れてみる。
「おれは…
俺は骸が好きだよ」
驚いたように上げられる顔。
なあ・・・
「何が欲しいんだ?」
「っ・・・」
抱きしめられた。
いつも戯れにまわされる腕とは違って
強く。
強く。
「おれはここにいるよ」
「其れは永遠じゃない」
呟くような声。
抱きしめる腕が強くなる。
肌を通して不安が伝わるようで
「なら次の約束をすればいいじゃないか」
「僕には何もありません。そんなもの何の役にも立たない」
弱い
弱い
こえ
無いものをねだるこどものように。
「でもここにいるんだよ」
明日の約束もないけれど
僕らは幼くて
何も持たない
でも
抱きしめたら暖かくて
今はその暖かさに甘えてる
「信じなくてもいいよ」
ゆっくりと首が横に振られる。
「愛しています」
「ずっとずっと。君が飽きるまで」
「むくろ・・・」
「約束しますよ」
end.