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例えばこんな恋の話

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「お前、何か食いたいもんねえの?」
 突然言われた言葉に新八は目を見開く。今、目の前の男は一体何を言ったのだろうか。何だか都合の良い夢でも見ているのかと思ったのだが、己は間違いなく起きている。その証拠に頬を抓ってみたが痛かった。自分の頬でなくて、目の前の男のそれであるが。
「痛ぇよ! 急に何すんだっ! お前はよっ」
いきなり何だと文句を言われたが、それを言いたいのはこっちの方だ。急に何を言い出すのだ、しかも言っている言葉の意味が、こちらには全く理解出来ない。
「急に何をするんだって、それはこっちの台詞ですよ、銀さんっ! 僕には、あんたが言っている言葉の意味が分かりませんよっ」
 新八にとって、銀時は特別な存在。一応ではあるが、仕事の上司であり、仲間であり、そして恋人でもある。世で言う「アラサー」である銀時の恋人が、十六歳の己であるなんて、口が裂けても言えやしないのだが。
 そう、銀時の恋人は新八なのである。その銀時は新八よりも十も年上なのにも関らず、彼に対して優しかったことなんて一度も無い。態度云々で言うなら優しいこともあるが、そういう話では無く、金銭的な意味である。
 万年貧乏の銀時が、新八に「ここは俺が金を出す」だとか、そんな台詞を言ってみせたことが今まで一度でもあっただろうか。否、聞いた覚えは全く無い。夢の中ですらも彼はそれを言いやしないのだ。新八の中で、銀時はそういう男なのである。
 それが今日は一体どうしたと言うのか。この男は今、
「食べたいものは無いか」と、そう自分に尋ねなかっただろうか? それがまるで奢ると言いたげな風であったが、気の所為なのだろうか。
「僕の食べたいものなんて聞いて、どうするって言うんです。もしかして、食べたいものの話がしたかっただけだとか、そういうことじゃないですよね?」
 新八の言葉の端々から、銀時はケチと、そう聞こえてくる。変に期待などさせないで欲しい。万事屋でも質素な食事であるが、志村家にもそんなに蓄えがある訳でも無し、普段の食事に「豪華」なんて言葉は程遠い。
「おま…、一体、銀さんを何だと思ってんの?」
「ケチなアラサー男」
 間髪入れずに銀時の言葉に、新八がそう返す。それに銀時が言い返せなかったのは、紛うことなき事実であるから。
 だが流石に、新八のそのもの言いに、銀時はぺしりと彼の頭を叩いた。それに余り力が入っていなかったのは少しばかりの罪悪感があったからだ。
「銀さんだって、偶には大判振る舞いするぞっ!」
「…本当ですか?」
 最初は嘘ですよね? と、新八は銀時の言葉を疑っていたのだが、段々と表情が変わってくる。驚きのそれから嬉しそうなものへ。一体、どれだけ俺が食わせてないみたいなんだと、銀時が少しばかり悲しくなったのを、新八は知らない。
「食い逃げするとか、そういう話じゃないですよね?」
「お前ねえ。どこまで俺を疑うつもりな訳? パチンコで勝ったんだっつーの!」
 びらりと札を新八の前に出せば、彼の顔が輝いた。数枚程度のそれだったが、二人にとっては大金だ。
 新八がその中から一枚だけ引き抜くと、それを銀時の前にかざす。銀時には彼の行動の意味が分からなかったのだが、その後直ぐに、何なのかを知ることとなる。
「じゃあ、今日はこれだけ。残りのお金は使わないで、タンスにでも仕舞っておきましょうねっ!」
 普段から貯金が出来ないから、こういう泡銭は残しておきましょうね、と新八が笑ってそう言うと、銀時が肩を落とす。
「お前、こんなときすら、相変わらず主夫なのな」
「締めるものは、締めていかなくちゃ駄目ですよ! 銀さんっ!」


 少しばかりの金で、少しばかりの豪勢な食事。手近なファミリーレストランで彼が注文したのは、ハンバーグとマロンパフェ。子供のようなそれだと思ったが、新八はしっかりしているようで、まだまだ子供なのだ。
「マロンパフェは、銀さんが頼んだんでしょうが!」
「煩ぇな! 大の大人が頼んだと思われると恥ずかしいだろうがっ」
 違うだろ! と新八が突っ込むと、銀時がそれを言うなと止めに入る。
 まあ、何を頼んだかはさて置いて、それだけではただ一枚の紙幣すらも使いきれなかった。残りはどうするのかと思いきや。
「あとはスーパーで適当な食材を買って、神楽ちゃんと三人で、ちょっと豪勢な夕食といきましょう」
 銀時が声をかけたときは、新八と二人ということだったのだが、結局彼は自分以外の者のことも考えている。
「…そうだな」
 だからこそこの青年を、…いや、まだ青年というには早過ぎるが、兎も角そんな彼を好きになったのだ。銀時は新八の言葉に少しばかり笑うと、小さく頷いた。
 スーパーで買い物を終えると、二人は帰路に着いた。万事屋の前まで来たところで、店から出てきたお登勢と出くわした。
「何だい、二人仲良く買い物かい?」
「はい、まあ、そんなところです」
 お登勢は新八が銀時の恋人であるという事実を知る、
数少ない内の一人だ。そうは言っても、新八がまだ十六歳であるから、銀時はまともに手を出していない。勿論彼女はそれすらも知っている。
「ところで新八」
 ちょっとおいでと、彼女にひらひら手を振られると、新八はお登勢の側へと寄る。そして彼女が彼の耳に唇を寄せると、こそりと呟いた。
「最近、何か良いこと無かったかい?」
「え?」
「銀時の奴、あんたに何か言わなかったかい?」
 良いこととは何だろうと新八は考えたが、思い当たることと言えば一つしか無かった。それはさっきの昼食のこと。
「あ、あぁ。ご飯は奢ってくれましたけど」
「…悲しい奴だねぇ」
 新八の答えを聞いて、せこいねえなんて彼女は溜息を吐く。彼女は一体、何を知っていると言うのだろう。
「もしかして、銀さんに何か吹き込みました?」
 恐る恐るそう尋ねると、彼女はにやりと笑う。
顔が近い所為もあって、彼女の笑顔がやけに恐ろしく見える。それに声を上げかけたが、新八は寸でのところで堪えた。
「偶には優しくしておやりって、そう言ったのさ。さもなきゃ、直ぐに見限られちまうよって。アンタはまだ若いからねえ」
「……」
 だから今日は妙に優しかったのか。お登勢の言葉に彼はようやく納得した。後ろを振り向くと、銀時が何だと首を傾げている。
「銀さん除者にして、おめーらは何を話してんだよ」
 ああ? と銀時が若干機嫌が悪そうにしているのは、お登勢が新八に何か吹き込んでやしないかと心配だからだ。
「大した話はしてないよ! ほら、もう行きなっ」
 お登勢が新八に銀時の方へ行くように促すと、彼女はにこりと笑った。それに新八も笑い返す。
「ババアと何話してたんだよ?」
「大した話じゃないですよ」
 銀時に尋ねられても、新八は本当のことを言わなかった。言って、銀時が怒り出しても面倒くさいが、本当のことを告げたらつまらないではないか。
(それくらい、アンタのことが好きってことさ)
 お登勢に言われたその言葉。どうやら銀時は、新八に普段優しくしていないことを気にしていたらしい。それによって新八が彼に愛想を尽かしてしまうのではないかと、そんな馬鹿なことを考えていたらしいのだ。
「大丈夫ですよ、銀さん」
「ああ?」
作品名:例えばこんな恋の話 作家名:とうじ