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エゴイスト達のシグナル 1

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「……私が13歳の時の話ですが、二年間、毎日執拗に付きまといやがったストーカーがいて……。今日そいつとオングストロームのピット内で会っちゃったんです!!」
≪………はぁ?……≫
「一応刺激しないよう穏便に、レースが終わったら改めて取材に来ると言った上、東西出版さんからお借りした携帯の番号とメルアドを渡して、かろうじて逃げてきました。でも、……後からだとその……、一人では逃げ切れる自信が全く無くて……、さりげなくフェードアウトできるよう、インタビュー終了後に私を連れ出して欲しいんです!!」

暫く沈黙が続いた。
その後、受話器越しに、ひいふうみぃ……と、指折り数えている声も聞こえてくる。

≪いや、そのストーカー……、まだお前に執着してるっていうのか? だって十年近くも前の話だろ? ありえねぇし安心しろ。そりゃお前……、きっと自意識過剰だ≫
「じゃないですよ!! だっていきなり人目も憚らずに抱きつかれ、しかもしゃくりあげて泣かれてしまいました。おまけに運命の人、ファムファータルとか愛してる愛してるって、壊れたオルゴールみたいにほざきやがって……、もう、寝言は寝て言えって感じです!!……」

話しているうちに、段々と恐怖と興奮が込み上げて、こっちがもう涙目だ。
ポケットに手を突っ込んでハンカチを探すが、無かった。

≪……その、前はどうやって諦めさせたんだ?……≫
「私達、当時北ヨーロッパに住んでいたんですが、私の父と兄が、先方の父兄、病院と主治医と話し合い、その後皆で共謀し、偽装で私が死んだことにして、日本に逃がしてくれました」

大掛かりなお芝居となったが、看護士さんから入院患者さんまで皆ノリノリで頑張った。
完全に騙し終えて、トゥーリが気絶し実家に運ばれていったあの瞬間、『オメデトウ、アンジェ!!』と皆でクラッカーを鳴らしてお祭り騒ぎした、あの時の達成感がとても良い想い出だ。

数年後、彼の兄のイシューから一度だけ【あの後1年ぐらい、トゥーリは悲しみに暮れ、廃人みたくなったんだ。弟は本当に君を愛していた。彼の愛情に免じて許して欲しい】と、事後報告を兼ねたお詫び電話をいただいたけれど、正直綺麗さっぱり存在を無かったものとして忘れていたから、電話も要らなかった。嫌な気分になっただけだ。

誰が二年間も……頭が禿げるぐらい人を追いかけ回してくれやがったロリコン男のその後なんて、知りたいものか!!
当時の苦痛を思い出した怒りと興奮で、ますます息が荒くなる。

≪……あのよ、もしかしてストーカーって、藤宮留依? それとも中沢航河の方?……≫

電話の向こうの織田編集長も、流石ブンヤの端くれだ。
十年前に北ヨーロッパに住んでいた人間……という、たった一言のヒントで、簡単に容疑者へと辿り付いてしまったらしい。

「……藤宮の方です……」
オングストロームの現リーダーやってるなんて、本当に盲点だった。
興味なんて全くなかったし、資料だってろくに見ちゃいなかった。
くっそう、髪と目の色も変えてやがって。
判っていたら、絶対関わらなかったものを!!

≪あー、……、何だったらお前、リポーター辞めるか?……今ならこっちももう一度選考しなおせばいい話だし、なぁ。そうしようそうしよう。だったら丸く収まる♪……≫
……どこがだ?
織田編集長側ばかりに都合が良い提案をされ、こっちの額に青筋がぴきっと浮かび上がる。


「困ります。私も、叔父を巻き込んで読者リポーターになったんですよ。それを途中で投げるとなると、きっと理由を聞かれます。そうしたら私、確実に実家に連れ戻されて二度と一人暮らしさせて貰えなくなるんですよ?」
≪そんなのそっちの都合だろが。面倒はゴメンだ、今後の事もあるし俺を巻き込むんじゃねー≫
ぴきぴきと張り詰めていた神経がぶっちぎれた瞬間だった。

「編集長なら、部下の記者の貞操を守るのだって仕事でしょ? それにもし、私があの変態に襲われでもしたらどうするの? 叔父の怒りを買ったら最後、東西出版社なんて一日持たずに潰れるわよ。判ったらとっとと来なさい!!」
≪はい!! 今すぐ!!≫

日本は【世界で唯一成功した共和国】……縦割り階級社会だと、誰かが言っていた。
つまり、上からの命令は絶対。
宝條院財閥の威光を振りかざす事は滅多にないけれど、現実、後ろ盾の七光りは最強だ。
虚しい。

それでも今日を凌げても、次回はどうなる?
取材期間は今日を入れて後3日。
トゥーリをかわし続け、仕事をやり遂げるのは、並の努力では無理だろう。

最初で最後の我侭だからと、叔父に泣きつき、強引な手法で得た【読者リポーター】の座。
神様はちゃんと見ていたようだ。

「……あー、バチが当たった……」

それでもどうしても会いたかったのだ。
未来に。
自分がもう一度、人生を一歩ずつ前に向かって歩きだす為に。



「……中沢、……アルトゥール航河……さん……。私はどうしても、貴方に……」