盂蘭盆の夜
「馬鹿にしてるの?」
『俺様は、今回の戦いで王様に勝つつもりだった。世界を破壊と滅亡で埋め尽くすつもりだった』
声を荒げる僕を制すように、バクラが静かに話し続ける。
『宿主は生かしてやるつもりだった。俺様の支配する闇の世界で』
「………」
『お前を利用したのも、身体を傷付けたのも、闇のゲームに勝った後の待遇を考えれば十分チャラにできると思った』
「…でも、結局お前は負けたじゃないか」
『そうだ。だから償うんだよ。大邪神ゾークが約束を破ったとなれば神の名折れだ』
「…約束?」
僕は悪魔と契約なんてした覚えはないけど。
『お前は千年リングに何も願わなかった。だから俺が勝手に約束事を設けた。…宿主のことは、何があっても守ると』
「それは…お前にとって、随分面倒な約束事じゃないのか?」
『確かにな。だが、それでお前の身体を都合良く操ることができるようになったのも事実だ』
結局それか。ふっと肩の力が抜けた。何だか今まで、一世一代の告白を聞いているようで落ち着かなかったんだ。
バクラは随分勝手な理屈をこねてるみたいだけど、僕の怒りは静まりつつあった。自分の信念を曲げたくないから僕の元へ来るらしい。それは僕にとって、同情よりも遥かに心地良い理由だった。目論見から外れたお詫びに、僕の保護者役を買って出てくれるらしい。
「……だからって、そのまんまお母さんみたいにならなくても…」
『何か言ったか?』
「別に何も。…今度、天音がホントに転生しちゃったかどうか調べて来てよ」
『面倒臭ぇな』
「ついでに救急箱って何処にしまったっけ?」
『全然ついでじゃねーだろ。固定電話の下だ、どっか怪我でもしたのか!?』
「違うよ。何処やったかなーと思っただけ」
僕は誤魔化すように手を後ろへ回すと、痛む手のひらも無視してナスの足をバキリと折った。