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帝人神様!!折原臨也の場合

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繰り返すが竜ヶ峰帝人は人間ではない。
 より正確に言うのなら自分は人間だと思っていたが実際のところは悪魔だった。これは覆らないことだ。子供心に悪魔や天使、妖怪などそういった人外、非日常の存在に憧れていたがまさか自分が非日常そのものだとは帝人も思っていなかった。この事実に帝人が喜ぶ間もなく現実は進む。
 唐突に帝人が自分は人間ではないと知った理由は謎の敵に襲われて失っていた記憶を取り戻した、などと心が躍る少年漫画的なものではない。記憶を失った原因自体が漫画というより生々しい大人の事情からきていた。
 帝人はそれを非難する気はない。
『どう? 彼らとは上手くやってる?』
 携帯電話から勝手に聞こえてくる声に帝人は肩を落とす。
 悪魔であるというのに始終白衣を着ている異端。
「新羅さん、ダメですよ? 着信音なしに自動的に通話状態にするなんて。地上では不自然です」
『誰も見ちゃいないよ。自意識過剰。平気平気、今は何処でも安全地帯だ』
「安全なのはそっちだけです」
 上司である岸谷新羅に対して帝人は溜息を吐く。
「上手くやっているのかは結果次第です。まだ、僕は何も」
『頑張っていっぱい捕まえるまで帰ってきちゃダメだから』
「分かってます」
 頷きながらも帝人は憂鬱な気分になる。
 故郷に戻れないというのは意外に淋しいものだ。
 地上という非日常を求めていた自分らしくないが案外失ってから気付くものも多いのだろう。
『大丈夫だ。淋しいなら私がそっちに行ってやろう』
『え、えぇ! ダメダメ。セルティ、かわいい子には旅をさせるべきだよ。谷底へ蹴落としてこそ愛情だよ』
「新羅さんはセルティさんに怒られて下さい」
 優しさの欠片もない新羅に対して帝人は静かに告げる。
 甘やかして欲しいわけではなかったが辛く当たられるいわれはない。あるいはあるのだろうか。
『転生系のシステムエラーは私のせいじゃないんだけど。帝人君の記憶消去はわざとだけどさ』
『お前という奴は! 堂々と言うことじゃないだろ。なぜ反省しない』
「こんなややこしいことになった原因の大部分は新羅さんが僕の記憶を消すからじゃないですかっ」
『まあまあ。帝人君は強力な協力者は得たんじゃないか? 禍を転じて福と為す。大出世間違いなし! やったね!』
『大丈夫だ! 帝人なら出来るッ!!』
 新羅の言葉にセルティがグッと拳を握るのが見える。
 テレビ電話というのも良し悪しだ。特に心強くない。
(普通の電話だとセルティさんと会話出来ないからなぁ)
 セルティの言葉はメールの文章のように現れる。手元にあるキーボードで打ち込んで帝人に送信しているのだろう。
 慣れたもので会話のタイムラグは発生しない。
 首なしの妖精、デュラハンであるセルティと悪魔である新羅のラブロマンスはともかく帝人が地上に来た理由はセルティの願いによる新羅からの命令である。その通りかは不明だが帝人は痴話喧嘩に巻き込まれたような気がした。
『それで「駆け魂」狩りもそうだが……見つかりそうか?』
 首を傾げるような仕草のセルティに帝人は首を振る。
「すみません。最初から動けて池袋に来れていたなら……」
『あは、あははは。運命の悪戯だね』
「人為的もとい悪魔的な陰謀ですね」
『帝人君ってば、陰謀論は小学生で卒業しないとダメだよ』
「僕に記憶があったなら最初からダラーズのネットワークを使いましたよ。今は砂漠で砂金拾いしてるみたいです」
『ざっくざくってことかい? 良かった良かった。セルティも安心だね。安心だからわざわざ地上に行く必要もないさ』
『無理するんじゃないぞ? 疲れたら私がカニ玉ぐらい作りに行ってやる。気軽に言ってくれ』
「……ありがとうございます」
 ツッコミを入れる気力もなく帝人は脱力する。
 記憶の混乱がおさまって思ったことは自分が忘れてしまっていた『役目』のことだ。自分が地獄の悪魔ならば人とは違いやるべきことがある。何よりも優先するべき『役目』。どうして忘れてしまっていたのか。考えれば簡単だ。地上に行くにあたって帝人に干渉した人物がいる。新羅だ。
(新羅さん本人もあっさり認めたけど、記憶の改竄なんてやっていいわけないのに……新羅さんがセルティさんを好きなのは分かるけど公私混同は大人としていけないと思う。大人だからこそ躊躇しないのかな)
 自分が潔癖なのかと帝人はもやっとするものを胸に懐く。
 帝人は地上へ行く時に普通の方法ではなく『転生』という手段をとった。長い目で見て人に馴染んでいた方が動きやすいと新羅が言ったからだ。新羅の言葉に頷くのがすでに間違いだった。新羅は本当にセルティのこと、あるいはセルティを好きな自分のことしか考えていなかった。
 人の子供として魂が合わず死にかけの肉体を帝人は貰い受けた。セルティの首があるだろうと予想される池袋近くに『転生』予定だった。交通事情を考えれば埼玉は遠くはないのかもしれない。帝人個人としては遠征というほどに上京には勇気がいった。いま思うならそれは『役目』に対する緊張感だったのかもしれない。
 帝人から連絡が来ないことに心配したセルティが池袋の街を走り抜けることがなければ思い出すことは出来なかっただろう。劇的な再会でも何でもなく「どうしたんだ、大丈夫か?」などと首なしライダーにPDAを突きつけられた日のことを帝人は忘れはしない。新羅自体がそういった風に設定していたのかは知らないがセルティと出会い帝人の記憶は濁流のように頭を巡った。
 セルティを地上に行かせたくないからこそ新羅は帝人を使いその上記憶を封じるなどという妨害を行ったわけだが、それを改めた理由というのが『駆け魂』だ。
『駆け魂』とは悪人の魂である。この『駆け魂』は人間に憑依する。肉体ではなく心の隙間に入り込みその人間の子供に転生しようとする。今まで『駆け魂』は女性に宿ると考えられていたが近年は新たな事実が発覚した。
 それこそ新羅が帝人の記憶を戻させた理由。

『駆け魂』は男にも宿る。

 それだけならば『駆け魂』狩りの範囲が広くなって大変なだけなのだが現実とは残酷なものだ。女性ならば生まれてくる子供その一人だけなのだろうが男の場合は体内で『駆け魂』を分割あるいは複製する。それが男女の肉体の違い。卵子は大体ひとつかもしれないが精子は億はある。『駆け魂』を持った男は無意識に生殖行為により『駆け魂』を振りまくのだ。
 女性と違い男性の生殖器が使える期間は長い。
『駆け魂』に乗っ取られた男が精通以降八十歳まで現役だった場合の『駆け魂』の増殖率は考えたくないものだ。
(……昔は封印から逃げた一体だけって話だった。それがいつの間にか六万まで増大するなんて。僕がゆっくりしている間に世界は変わり過ぎだよ。元々悪人の魂だから『駆け魂』はずる賢く美形に憑依するからすぐに――)
 臨也を思い出して帝人の胸は少し痛む。『駆け魂』に乗っ取られたのなら誰彼かまわず臨也は襲いたくなるはずだ。