日本人のサガ
「乱太郎くんは、髪伸ばさないの?」
他愛ない立ち話の合間に、タカ丸は言った。乱太郎を優に超える身長の彼に見下ろされ、まるで髪に話しかけられているようだ。
「学園の生徒で伸ばしてないの、キミくらいでしょう」
「はあ…」
「ああ、でもまだ1年生だもんね。これから伸ばしても全然大丈夫だよねぇ」
にこにこと朗らかな笑顔の隣に、金髪。乱太郎よりも遅くに学園に入り、忍たまとしてはまだまだで、先輩とは呼んでいないけれどずっと年上で、4年生で、優秀な髪結い。それらの要素のどれも、乱太郎の気を特別惹くものではない。この学園には1年生から6年生、くノ一果ては教職員にまで、個性的な面子が揃いすぎていて、タカ丸もそのうちの一人にすぎない。きり丸のアルバイト関係で多少付き合いがあったりするけれど、同じ委員会ではないし。迷惑をかけられることも無いので、警戒してわざわざ気配を探ることもない。気に留めるようなことは何も無かった。ただひとつ、その金髪を除いては。
乱太郎の知る人間で、こんな色を持っているのは彼だけだ。分かっているのに、つい視線が行ってしまう。見慣れない色。周りとは違う色。学園でならば余計に目立つ。手入れが行き届いているのであろう、美しい色。それってホントに作り物じゃなくて、頭から生えてるんですか? と問う代わりに、乱太郎は、
「…そういえば、タカ丸さんは、自分で髪切ってるんですか?」
適当な思いつきでごまかした。タカ丸は一瞬きょとんとしてから、「まさかぁ」と明るい声でふわふわ笑った。それに合わせて彼の金髪もふわふわ揺れる。視線はまたもや釘付けだ、慣れる兆しも無い。