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日本人のサガ

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目の前で金髪が揺れている。手に取ったら溶けてしまいそうに細く光っている。何本も集まって、うねって、光を反射する。タカ丸に会う度に、乱太郎はその金髪に目をやらずにはいられない。ひとりひとり顔が違うのは当たり前のことなのに、色が違うとどうしてこんなに特別に感じるのだろう。群集の中でタカ丸の姿を見つけることは容易い。見つけてしまえば、あちらもこちらを見つける。するとあちらは近づいてくる。対面すれば、言葉を交わさず別れることは不可能に違いない。普段厄介事に敏感で、その回避を心がける乱太郎ではあるが、自然に吸い寄せられる視線を戻すことは出来なかった。別段、話しかけられて困る相手でもないのだけど、それにしてもあの髪は不思議だ。
「乱太郎くんは、髪伸ばさないの?」
他愛ない立ち話の合間に、タカ丸は言った。乱太郎を優に超える身長の彼に見下ろされ、まるで髪に話しかけられているようだ。
「学園の生徒で伸ばしてないの、キミくらいでしょう」
「はあ…」
「ああ、でもまだ1年生だもんね。これから伸ばしても全然大丈夫だよねぇ」
にこにこと朗らかな笑顔の隣に、金髪。乱太郎よりも遅くに学園に入り、忍たまとしてはまだまだで、先輩とは呼んでいないけれどずっと年上で、4年生で、優秀な髪結い。それらの要素のどれも、乱太郎の気を特別惹くものではない。この学園には1年生から6年生、くノ一果ては教職員にまで、個性的な面子が揃いすぎていて、タカ丸もそのうちの一人にすぎない。きり丸のアルバイト関係で多少付き合いがあったりするけれど、同じ委員会ではないし。迷惑をかけられることも無いので、警戒してわざわざ気配を探ることもない。気に留めるようなことは何も無かった。ただひとつ、その金髪を除いては。
乱太郎の知る人間で、こんな色を持っているのは彼だけだ。分かっているのに、つい視線が行ってしまう。見慣れない色。周りとは違う色。学園でならば余計に目立つ。手入れが行き届いているのであろう、美しい色。それってホントに作り物じゃなくて、頭から生えてるんですか? と問う代わりに、乱太郎は、
「…そういえば、タカ丸さんは、自分で髪切ってるんですか?」
適当な思いつきでごまかした。タカ丸は一瞬きょとんとしてから、「まさかぁ」と明るい声でふわふわ笑った。それに合わせて彼の金髪もふわふわ揺れる。視線はまたもや釘付けだ、慣れる兆しも無い。
作品名:日本人のサガ 作家名:ひょっこ