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毒を盛ります

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 今日もまた帝人は買い物かごを片手に店内を物色していた。あれを買ってこれを買ってとねだっては母親にきつく叱られている親子連れの横を通った帝人は、自分にもあんな頃があっただろうかと何となく懐かしく思う。ふいに実家へ飛んだ気持ちのまま、今晩のおかずは肉じゃがにしようと決めた。
 別に実家の母が肉じゃがを好んで作っていたわけではない。ただ、なんとなく母の味といえば肉じゃがだろうかと思っただけだ。カレーと答える方もいるだろうが、以前に出したシチューで懲りた帝人にカレーを作るつもりはない。ホワイトソースを小麦粉から作っていないことに対してやたらと文句を言われたのだ。帝人はホワイトソースが小麦粉から出来ているということすら知らなかった。カレーを作ろうものならルーから作ったかと聞かれるに違いない。固形ルーしか使ったことのない帝人にとって、安易に選択できる料理ではなかった。
 肉じゃがのレシピを検索しようとポケットに入れていた携帯を取り出そうとして、止める。肉じゃがくらい特に調べなくても大丈夫だろう。それになんだか定番の料理に使う材料を調べるのはなんだかみっともないような気がしたのだ。誰に見栄をはるというわけではないが、スムーズな買い物をしたい。まだまだ未熟な帝人であったが、こうやってただ一人暮らしをしているだけでは縁のなかった食材をスーパーのカゴの中へ入れていく行為が気に入っているのだ。臨也が美味しいと言ってくれれば尚いいのだけれど。


「帝人くんは、レシピ通りに作ってない」というのは帝人の作った料理を食べたとき、かなりの割合で臨也から指摘される項目である。
「そんなことないです」とは返せなくて帝人は一口大に切られたジャガイモを箸の先でつついた。
 皿の中にはジャガイモとニンジンと肉が入っている。他にも入れるものがあったと気が付いたのは臨也の部屋に戻ってきたからで、しかし、臨也の家が肉じゃがにインゲンを入れる派であったのか、グリンピースを入れる派であったのか、糸コンニャクを入れる派であったのか、それともシラタキを入れる派であったのか。そもそも糸コンニャクとシラタキの違いが分からない帝人は、それでも、タマネギは入れた方が良かったのかもしれないと思いながら、肉じゃがと呼ぶには具の少ない皿の中を眺めた。
 足りない食材はあるが、味付けは悪くないはずだ。当然、臨也に食べてもらう前に味見はしている。
 肉じゃがの作り方はおぼろげに想像がついたが、煮汁を作る際の調味料の比率は分からなかったので、そこはウェブ上に掲載されているレシピを参考にした。だが参考程度と言うだけで、実際は臨也の言うとおり、帝人はレシピ通りに作っていない。男の料理的な適当さが介入していることは確かだ。けれど調味料の配合の比率は、肉じゃがのレシピを紹介しているウェブサイトですらまちまちだったのだから、帝人がなんとなく調味料を合わせてしまったとしても、特に問題はないはずだ。肉じゃがの作り方、で検索して出てきた何十万ものウェブページのうちのどこかには、帝人が適当に混ぜ合わせた煮汁と同じ分量の作り方が載っているに違いない。
 結果として出来た肉じゃがは、臨也が眉をひそめるほど妙な味だとは思わなかった。煮ている間に出てきた灰汁はこまめにとったし、具材にはじっくりと煮汁を通してあるし、箸の通りもスムーズだ。ちゃんと火が中まで通った食材たちはほっこりと湯気を出している。初めて作ったにしてはまずまずの出来だろうと、帝人自身は満足していた。
「帝人くんさあ、肉じゃがに使われてるお肉の境界線って知ってる?」
「……臨也さんが言いたいこと、分かりますよ」
 臨也が気にしているのは足りない食材でもなく、適当に調味料を配合して作った煮汁でもなく、肉だったのかと帝人は臍を噛んだ。帝人も、これについてはまずかったかと思わないわけではなかったのだ。

作品名:毒を盛ります 作家名:ねこだ