いつかふたりと、
ハルが、心配そうな顔色で彼を覗き込んでいた。
「大丈夫ですか?」
「ああ。すまない、いつの間にか寝ていたのか」
「気にしないで下さい」
ハルは優しく言う。
「最近、真斗くん、忙しかったから、疲れてらっしゃるんですよ」
確かに、疲れていない訳ではない。だが、恋人と過ごす大事なひと時に眠ってしまうとは、失態だ。いや、勿体ないではないか。
「せっかくなので、起こさずに寝ていてもらおうと思ったんですが、何だか苦しそうなお顔をなさっていたので、起こしたんです」
「そうだったのか。気を遣わせてしまったな」
いいえ、とハルは微笑む。
真斗も口の端で笑いかけたが、表情が堅かった。ハルはまた、彼の顔を見つめる。
「何か嫌な夢でも見ていたんですか?」
「ん? ……いや、大したものではないんだ」
ちょこん、とハルは首を傾け、眉間に皴を刻む。何か言おうとして、けれど躊躇っている。
真斗はちょっと苦笑して、彼女の髪を撫でた。
「なんてことはない、ただの夢なんだが」
結婚して、子供もいる。大人になった自分、の夢だった。
子供は男の子で、夢の自分は、その子供を心から愛していた。
それゆえに。
厳しく、育てていた。そう見えた。子供は、父の言葉に、はい、と頷く。頷く手前で、少し傷ついた顔をしたように見えた。
――同じだ、と感じた、分かった。
自分も親になり、実父と同じ育て方をしているんだ、と。
青醒めた。こんなはずではなかった、ただ大事だからこそ、――だから、でも、それでいいのか?
ハルが真斗を起こしたのは、この直後だ。
「父は俺を愛しているからこそ、厳しかった。しかし、俺はそれが辛かったんだ。だから、自分は同じようにはすまいと考えているんだが」
しかし、あんな夢を見て、少し不安になった。
ただの夢だと言うのに。
ハルが、ふいに手を伸ばしてきた。
そうして、真斗の頭を撫でた。よしよし、と慰めるような仕種だ。
「大丈夫です。真斗くんは優しいお父さんになりますよ」
にっこりと、彼女は柔らかく微笑む。
「私も良いママになれるよう頑張ります。一緒に、幸せになれる子に育てましょう?」
真斗は、そんな優しい恋人の言葉に、言葉を失った。かーっと、頬が熱くなる。
「そ、それは、……お前が俺の子供の母になるという意味、だろうか?」
「はい! ……あ、あれ?」
自身の発言にある、深い意味に気づいたのか、ハルの顔も赤みを帯びてきた。
あまり考えずに口にしたようだ。
真斗は、思わず笑う。
「いつか、そうなるといいな。――いや、そうなりたいと思う」
はっきりと真斗が告げると、照れながらも笑ったハルは、はい、と頷いた。